雁の寺

1962年作品
監督 川島雄三 出演 若尾文子、高見国一
(あらすじ)
桐原里子(若尾文子)は高名な日本画家岸本南嶽の妾であったが、岸本の死により、彼の知人である孤峯庵の住職慈海の世話になることに。その寺には慈海の他に小坊主の慈念(高見国一)が住んでいたが、慈海による過酷とも思える修行のせいか、彼は里子に対しても心を開こうとしなかった。そんなある日、ふとしたことから慈念の出生の秘密を知った里子は、彼を不憫に思うあまり….。


川島雄三の監督作品第二弾。水上勉の小説が原作ということで、「幕末太陽伝(1957年)」や「しとやかな獣(1962年)」とは打って変ったドロドロ物だった。

慈念を不憫に思った里子は彼と一度だけ過ちを犯してしまうんだけど、それによって慈海を含めた3人の関係に微妙な変化が生じ、それが悲劇へと繋がっていく。慈念の内面に関する説明的なセリフがほとんどないので良く解らないのだが、最初の頃、彼は里子に自分の母親のイメージを重ねていたのかもしれない。それが彼女と関係を持ってしまったため、母親への思慕が歪んだ恋愛感情に変化し・・・ってところなのかなあ。映画では慈海の死因が何なのか直接描かれていないんだけど、その後の慈念による隠蔽工作から推測すると、やっぱり彼が殺したということなんだろうか。

映像の方でも、最初の方で慈念が便所の汲取りをするシーンを(その内容物まで含めて)克明に描いたり、トンビが自分の巣の中に生きた蛇を持ち帰るシーンを挿入したりと、ちょっとグロテスク。この作品はいわゆるパートカラーなんだけど、幸いこれらのシーンは白黒なのでちょっとは助かった。

当時29歳の若尾文子は、優しさと愚かさを併せ持つキャラクターを好演しており、なかなか魅力的。いつも思いつめたような表情をしている慈念役の高見国一も悪くないけど、慈海の友人雪州を演じた山茶花究の飄々とした雰囲気は、陰鬱なストーリーの中で唯一の救いだった。

ということで、お寺を舞台にした作品にもかかわらず、仏の救いなんて全く出てこない。俺が見た川島作品としては初のシリアス物だった訳だが、まあ、彼の性格から考えるとこういった作品のほうがむしろ本筋なのかもしれず、それが彼の撮る喜劇映画でも独特な陰影として現れてくるのだろうと思いました。