騙されてたまるか −調査報道の裏側

清水潔の5冊目。

「1 騙されてたまるか—強殺犯ブラジル追跡」から「12 命すら奪った発表報道—太平洋戦争」まで12の章に分かれているのだが、力点の置かれている「2 歪められた真実—桶川ストーカー殺人事件」と「4 おかしいものは、おかしい—冤罪・足利事件」は、それぞれ単行本になっている「桶川ストーカー殺人事件 遺書」と「殺人犯はそこにいる」のダイジェスト版なので、まあ、ヒマとお金があるのならそちらを読んだ方がずっと面白い。

それら以外で興味深かったのは「9 謎を解く—北朝鮮拉致事件」であり、「柏崎の新潟県警外事課の例を出すまでもなく、捜査当局は拉致事件発生直後から相当の事実を掴んでいたのだ」という指摘は特に重要。拉致事件が国会やマスコミ等で取り上げられるようになったのは1980年代以降のことであり、容疑者を名指しできなかったとしても、警察がいち早く警戒態勢を敷いていれば拉致事件の一部は未然に防げたのかもしれない。

ということで、本書が発行されたのは2015年のことであるが、それからの3年間を振り返ってみると、著者の主張にもかかわらず、我が国のマスコミ報道は権力に対して萎縮する一方であり、疑惑満点の森友・加計問題に関しても政府側の不誠実な釈明をそのままタレ流すのが主流。残念ながら、先の敗戦で得た貴重な教訓はマスコミ関係者の血肉にならなかったようです。