マダム・フローレンス! 夢見るふたり

2016年作品
監督 スティーヴン・フリアーズ 出演 メリル・ストリープヒュー・グラント
(あらすじ)
1944年のニューヨーク。クラシック音楽界のパトロンとして知られるマダム・フローレンス(メリル・ストリープ)は、亡父から受け継いだ莫大な遺産を元に恵まれない音楽家の支援等を行う日々。そんな彼女には自らもオペラ歌手として舞台に立ちたいという夢があり、夫のシンクレア(ヒュー・グラント)は彼女のためにレッスン用のピアニストを雇うことにしたのだが…


実在の人物であるマダム・フローレンス・ジェンキンスの半生を描いたハートフルコメディ。

夕食後、久しぶりにDVDでも見ようかということになり、先日の「アノマリサ(2015年)」での教訓(?)を生かして“危険性”の少なそうなこの作品を選択。しかし、そのあまりの無難さが災いしたせいか、妻&娘の食い付きはイマイチであり、いつの間にか俺一人での鑑賞になってしまった。

さて、マダム・フローレンスには人前で口に出せない秘密が2つあり、その一つは飛びっきりの音痴であるということ。しかし、本人にその自覚は無いようであり、落語の「寝床」みたいな身内だけでのリサイタルで妙な自信を付けてしまった彼女は、ついにカーネギーホールでの単独公演に踏み切ることになる。

まあ、これだけだったらまるっきりのドタバタ喜劇になってしまうのだが、本作の場合、彼女のもう一つの秘密がストーリーに適度な陰影を投げかけており、それは遊び人だった前夫からうつされてしまったという持病の梅毒。そのせいで彼女は自分の頭髪を全て失ってしまい、また、愛する夫シンクレアともベッドを共にすることも出来ないんだよね。

そのシンクレアを演じているのがヒュー・グラントということで、当然(?)、別に若い愛人を囲っているのだが、このシンクレア君、意外に真面目なところがあり、妻と愛人の板挟みになってしまうシーンでは迷うことなくマダム・フローレンスを選択。そのせいで清々しいラストになっているのだが、“史実”の方ではどうだったんだろう。

ということで、確かな歌唱力に定評のあるメリル・ストリープに音痴の役をやらせるというアイデアは面白いと思うが、シンクレアやピアニストのコズメの真面目さも含め、少々美談にまとめすぎてしまったような印象。せめてコズメくらいはカネ目当ての小悪党に仕立ててしまった方が、笑える場面は増えたような気がします。