マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

2011年作品
監督 フィリダ・ロイド 出演 メリル・ストリープジム・ブロードベント
(あらすじ)
86歳になった元英国首相のマーガレット・サッチャーメリル・ストリープ)は、夫のデニス(ジム・ブロードベント)にも先立たれ、ガードマンに守られたビル内の一室で孤独な晩年を送っていた。しかし、認知症の進行している彼女の傍らには常にデニスの幻が寄り添っており、そんな幻想を相手にしながら、今日も“鉄の女”と呼ばれた自らの波乱多き人生を振り返る….


サッチャー元英国首相の半生を描いた作品を妻と一緒に鑑賞。

同じイギリス製の伝記映画ということで、(おそらく妻も)「英国王のスピーチ(2010年)」のような作品を期待していたのだが、同じ歴史に名を残す人物といっても、長年権力の中枢にあった人物と政治的な責任を伴わない国王とでは評価の観点に大きな差があるようであり、本作からは「英国王のスピーチ」で感じられたような暖かい雰囲気は微塵も伝わってこない。

ストーリーは、精神的にも肉体的にも老化が著しい現在のサッチャーによる回想シーンの積み重ねで出来ており、父親の影響で政治家を志すようになった娘時代から、彼女の首相としての人気を高めるきっかけとなったフォークランド紛争を経て、人頭税の導入に対する国民の反発から首相を辞任するに至るまでが描かれている。

しかし、各エピソードとも描写は一面的であり、サッチャー自身の視点からしか描かれていないため、その内容を総合的に把握することは難しい。これは、彼女の下した決断に対する歴史的評価を回避するため、意識的にやっているのだと思うが、回想シーンの合間に描かれる現在のサッチャーの様子から推察すると、まあ、決して肯定的な評価は期待できそうにないような気がする。

主演のメリル・ストリープは、サッチャーの娘時代を除き、ほとんど出ずっぱりの状態であり、本作の演技により2度目のアカデミー主演女優賞に輝いたのも十分頷ける熱演であるが、正直、ストーリー自体はさほど面白いものではなく、彼女の名演技を楽しむだけの作品になってしまっているのが残念だった。

ということで、我が国にも在任中に新自由主義的な政策を推進し、大義なきイラク戦争を率先して支持した元総理大臣が存在するのだが、まあ、我が国の映画界においては、その人を題材に映画を撮ろうと考えるような人物はおそらく一人も存在しないでしょう。