デッドゾーン

1983年作品
監督 デヴィッド・クローネンバーグ 出演 クリストファー・ウォーケンブルック・アダムス
(あらすじ)
高校教師のジョニー・スミス(クリストファー・ウォーケン)は、同僚のサラ(ブルック・アダムス)とのデートからの帰り道、交通事故に巻き込まれて大けがを負い、昏睡状態に陥ってしまう。それから5年、奇跡的に目を覚ましたジョニーは、サラが別の男性と結婚したことを両親から知らされてショックを受けるが、実は彼自身にもある重大な変化が起きていた….


デヴィッド・クローネンバーグが、「ヴィデオドローム(1983年)」に次いで発表した作品。

公開当時、スティーヴン・キングの原作小説を先に読んでしまっていたことや、クローネンバーグのグロい映像表現が少々苦手だったこともあり、長らく鑑賞を差し控えてきたのだが、順調に老化が進んでくれたおかげで、原作のストーリーに関する記憶は今やかなり曖昧。娘のおかげでクローネンバーグ作品に対する苦手意識もほぼ払拭できたということで、帰省中の彼女と一緒に鑑賞に及んだ次第。

さて、手に触れるだけで相手の過去や未来を知ることが出来るという超能力を身に付けてしまった主人公は、その能力の故に周囲から疎まれ、次第に孤立を深めていくのだが、まあ、超能力を持つことは必ずしも本人の幸福に繋がらないということは、A.E.ヴァン・ヴォークトが1946年に発表した「スラン」で既に取り上げられており、それほどの新鮮味は感じられない。

しかし、本作において主人公の孤独を表現したクリストファー・ウォーケンの演技には特筆すべきものがあり、本作の最大の見どころは、棄てられた子犬のように物悲しくも美しい彼の眼差しだろう。今や名バイプレイヤーとして大活躍中の彼であるが、こんな純粋無垢な演技を披露してくれた時代もあったんだなあ。

ストーリー的には、主人公がグレッグ・スティルソン上院議員候補の“未来”を知ってから暗殺を決意するまでの展開が性急に過ぎ、観客に“他の手段もあったのでは?”という疑念を抱かせてしまうところが大きな欠点。もはや記憶の欠片も残っていないが、スティーヴン・キングがそんな初歩的な失敗を犯すとは考えられず、おそらく脚色上のミスなんだろう。

ということで、映像の方は意外にマトモであり、初期のクローネンバーグらしさ(?)が出るのは殺人犯が自殺を図る1シーンだけ。しかも、そこでも観客が目を背けるのに十分な時間的余裕を与えてくれているため、被害の方は最小限に止めることが出来ました。