相続人

1997年作品
監督 ロバート・アルトマン 出演 ケネス・ブラナーエンベス・デイヴィッツ
(あらすじ)
敏腕弁護士のリック(ケネス・ブラナー)は、ひょんなことから出張パーティーのウェイトレスのマロリー(エンベス・デイヴィッツ)と知り合い、一夜を共にする。その借り(?)を返すため、リックは変人である彼女の父親ディクソンを法廷に引っ張り出し、精神病院に強制入院させることに成功するのだが、間もなく彼は病院を脱走してしまい、それ以降、リックの周囲で不審な出来事が起きるように….


ロバート・アルトマン初の(?)サスペンス・スリラー作品。

原案が、ベストセラー作家のジョン・グリシャムによるオリジナル・ストーリーという点が一つの売りのようであるが、正直、ストーリー自体はそれほど面白いものではない。マロリーがある“目的”のために腕の立つ弁護士に接近するという発端は、まあ、理解できなくもないのだが、その後の展開はかなり強引。

全てが彼女(とその共犯者。以下同じ)の計画どおりなのだとすれば、当然、ディクソン(ロバート・デュヴァル)の脱走まで彼女が仕組んだことになるのだが、普通に考えて一般人にはちょっと無理だろうし、それ以降のリックのかなり破天荒な行動をすべて予見することもほとんど不可能に近い。

お約束のドンデン返しもなんかバタバタした印象であまり感心できず、アルトマン初の(?)失敗作か、と思いながら見ていたのだが、不思議なことに見終わってみるとそんな不快な気持ちは何処へやら。何となく満足した気分になってしまうのだから、アルトマン作品は実に奥が深い。

その一番の理由は、ケネス・ブラナー扮する主人公のキャラクターが非常に魅力的であるところ。裁判に勝つためなら手段を選ばないような卑劣な男であり、女性関係もだらしないのだが、意外に子煩悩だったり、別れた妻の恋人に嫉妬したりするところが妙に可愛らしい。マロリーの罠にまんまとハマってしまったのも、スケベ根性だけではなく、彼の優しさがその大きな原因だったのだと思う。

ということで、酒びたりの私立探偵に扮するロバート・ダウニーJr.や主人公の同僚役のダリル・ハンナといった共演者の演技も素晴らしく、作品の雰囲気を大いに盛り上げてくれている。ストーリーよりもキャラクターで見せるというのは、如何にもアルトマン流のスリラーらしいと思いました。