上海特急

1932年作品
監督 ジョセフ・フォン・スタンバーグ 出演 マレーネ・ディートリッヒ、クライヴ・ブルック
(あらすじ)
政情不安定な1930年頃の中国。大勢の人でごった返す北京駅では、間もなく“上海特急”が発車しようとしていたが、列車に乗り込んだ英国軍医のハーヴェイ大尉(クライヴ・ブルック)は、そこで昔の恋人マデリーン(マレーネ・ディートリッヒ)と偶然に再会する。しかし、二人が別れてからの5年余の間に、彼女は男を次々と食い物にする“上海リリー”と呼ばれる悪名高い女になっていた....


「間諜X27(1931年)」に続く、スタンバーグ&ディートリッヒ・コンビの第4弾。

上海特急の車内では、当初、この両名による大人の恋の駆け引きが展開される訳であるが、途中、革命軍によって列車が乗っ取られてしまい、政府軍に逮捕された革命軍No.2の要人との人質交換要員として、ハーヴェイが革命軍に捕らわれてしまうという事件が発生して状況は一変。にわかにサスペンス映画の如き様相を呈してくる。

しかし、この革命軍のリーダーであるチャンという男が大の女好きで、マデリーンに横恋慕したことから革命騒動は何処へやら。嫉妬心から、拘束したハーヴェイの目を焼ゴテで潰そうとするチャンに対し、彼女はチャンの女になることを約束してハーヴェイを無事救い出すのだが、ハーヴェイはそれを彼女の“心変わり”と勘違いしてしまう。

結局、いつものディートリッヒ作品らしく、男女の愛憎がテーマの作品になっているのだが、その恋の雰囲気が、列車乗っ取り事件を間に挟み、クール系→ドロドロ→コメディ風と明確に変化しているのが面白い。まあ、最後のコメディ風への切替えについては、少々強引な感じがしないでもないが、あの幸せそうなハッピーエンドのためなら仕方ない。

なお、本作には、マデリーンの他にもう一人、謎の中国人美女フイ・フェイ(アンナ・メイ・ウォン)が登場するのだが、おそらく彼女は、原作ではマデリーン自身の身に起きることになっていたヨゴレ役的なエピソードを引き受けるため映画用に用意されたキャラであり、こんなところにも当時のディートリッヒに対する配慮の程が窺える。

ということで、アカデミー賞の撮影賞に輝いたというカメラワークも素晴らしく、これまでに見たスタンバーグ&ディートリッヒの作品の中ではこれが一番面白い。1951年に「北京超特急」としてジョゼフ・コットンの主演でリメイクされたらしいが、そのときのマデリーンとフイ・フェイの関係は一体どうなっていたのでしょうか。