ノーストリリア

今回の俺の本棚のサルベージで引っかかってきたのは、コードウェイナー・スミスの長編SF小説

某人気漫画の影響で、今では“人類補完機構シリーズ”の中核をなす作品として位置づけられているらしいが、俺がこの作品を購入した当時(=この文庫本の奥付には“昭和62年3月31日発行”とある。)は、作者の正体が我が国との因縁も浅からぬあのポール・ラインバーガー博士だという点に注目が集まっていた。

さて、読んでみての印象は、“理性的なフィリップ・K・ディック”っていう感じかなあ。あらゆる面で現代社会とは異なった超未来社会における物語ということで、まあ、こちらとしては作者の導いてくれる方向へ付いていくのが精一杯な訳であるが、幸い、その世界には嘘をつくコンピュータや卓越した建築技術を持つダイモン人、動物から造られた下級民とその神的な指導者といった具合に魅力的なアイデアがぎっしり詰まっている。

突然、意味不明の人物や言葉が登場したりするので、俺のような初心者にとって決して読み易い作品とは言えないものの、後半は究極的なヒロインとの純愛も楽しめるということで、最後まで読みとおすだけの価値は十分にある。

また、このシリーズの裏の主役である補完機構の持つ不気味なイメージはちょっとゾクゾクするくらいであり、これにはおそらくラインバーガー自身が第二次世界大戦中にその身をおいた官僚機構での経験が十分に生かされているのだろう。

ということで、「補完」という控えめな意味を持つ言葉に、「機構」という非人間的な圧力をイメージさせる言葉を組み合わせたのは翻訳家の伊藤典夫のアイデアらしいが、そのセンスはまさに天才的。確か、「鼠と竜のゲーム」も本棚に埋もれていたと思うので、次の機会に探してみようと思います。