1931年作品
監督 ジョセフ・フォン・スタンバーグ 出演 マレーネ・ディートリッヒ、ヴィクター・マクラグレン
(あらすじ)
第一次大戦中のウィーン。戦争で夫を失い、娼婦へと身を落としていたマリー(マレーネ・ディートリッヒ)は、偶然、オーストラリア帝国の諜報部高官の目にとまり、“X27”というコードネームを持つ女スパイとして生まれ変わる。最初の任務で、反逆者の疑いのあるヒンダウ大佐に近づくために仮装舞踏会へ行くが、彼女はそこでロシア軍のクラノウ大佐(ヴィクター・マクラグレン)と出会う....
「モロッコ(1930年)」、「嘆きの天使(1930年)」に続く、ディートリッヒ&スタンバーグ・コンビの第3弾。
雨の夜、街灯の傍らに立つ娼婦がズリ落ちた黒のストッキングを直すシーンから始まる本作は、もう、最初から最後まで完全にマレーネ・ディートリッヒのために作られた映画であり、彼女の扮する、“生きるのも死ぬのも怖くない”とうそぶくハードボイルドな(?)ヒロインの生き方を魅力的に描いている。
スパイ物ということで、一応、女の武器を使って目標に近づいたX27が機転を利かせて敵の情報を入手するというエピソードも登場するのだが、そちらの方はあくまでも必要最低限に抑えられており、余った時間は彼女の物憂い表情や一挙手一投足を念入りに描写することに費やされている。
特に、惚れた男のために彼女が銃殺刑に処せられるというラストシーンは絶品であり、化粧を直したり、彼女を想う若い兵士の涙を自分の目隠し用の布で拭ってあげたりするシーンの描写にじっくりと時間をかけた後、射殺シーンの方は一瞬であっけなく終わらせてしまうという演出は、彼女の強さと儚さの両面を見事に表現している。
また、そんなX27に命がけで惚れられるロシア側のスパイを演じているのが、公開当時48歳のヴィクター・マクラグレンであり、後のフォード作品に出演したときの粗野で豪快な役どころとは対照的な、なかなかの色男ぶりを拝見出来たのは、とても嬉しかった。
ということで、戦前の作品の故、今の作品に比べるとストーリー展開がやや性急すぎる気もするが、それによって一種独特のスピード感が生み出されていることも事実であり、個人的には決して嫌いではない。次は「上海特急(1932年)」を見てみることにします。