ドゥ・ザ・ライト・シング

1989年作品
監督 スパイク・リー 出演 ダニー・アイエロスパイク・リー
(あらすじ)
ブルックリンの黒人街ベッドフォード・スタイヴェサント。黒人のムーキー(スパイク・リー)は、イタリア人のサル(ダニー・アイエロ)が経営するピザ屋で配達の仕事をして暮らしている。結婚して、子供もいるのだが、給料が安いために妻子を養うことが出来ず、別居状態。この街に住んでいる他の黒人仲間たちと同様、明日への希望もない、無気力な日々を送っていた….


スパイク・リーが製作、監督、脚本そして主演を務めた彼の出世作

全編にわたり、ブルックリンの黒人街に住むダメ〜な黒人たちの無気力な暮らしぶりが丹念に描かれており、ピザ屋の長男で、この街で商売を続けることを嫌がっているピノが発する“マジック・ジョンソンやエディ・マーフィーは黒人を超えたもの(=お前らとは違うんだ!)”という言葉にも思わず頷いてしまいそうになる。

そんな彼等が、まあ、夏の夜の暑さのせいもあったのかも知れないが、最後の最後にちょっとした暴動を起こし、長年親しんできたピザ屋を焼打ちしてしまう。このピザ屋の店主のサルは(息子のピノとは違い)特に人種差別主義者という訳ではなく、暴動の切っ掛けとなった彼と黒人二人組との喧嘩にしても非は明らかに後者の方にあるため、この暴動のエピソードだけに限って言えば、やはり悪いのは黒人たちということになるのだろう。

しかし、この暴動の本当の原因は、サルと黒人二人組との喧嘩を止めに入った警官が、喧嘩の原因を調べようともせずに黒人二人組の方だけを逮捕しようとした上、そのうちの一人を誤って殺してしまったことであり、そのことが日頃からの白人に対する憎しみに火を付けたというのが事の真相。

まあ、この暴動騒ぎは何の改善効果をもたらすこともなく、翌朝、何事もなかったかのように再び真夏の一日が始まるところで映画は終わりになってしまう。スパイク・リー自身、この件に関してどちらが正しいとは明言せず、最後のところで、全ての暴力を否定するキング牧師の言葉と自衛のための暴力を“知性”として認めるマルコムXの言葉の両方を引用してみせるのだが、まあ、どちらかといえば当然後者の意見を支持しているのだろう。

ということで、スパイク・リーの作品は政治色が強すぎるというイメージがあったため、これまでちょっと敬遠気味だったのだが、それは俺の完全な勘違いであり、本作は娯楽作品として見ても十分に面白い。今度は、彼の「マルコムX(1992年)」を見てみようと思います。