マルコムX

1992年作品
監督 スパイク・リー 出演 デンゼル・ワシントンアンジェラ・バセット
(あらすじ)
マルコム・リトル(デンゼル・ワシントン)は、仲間から“レッド”の愛称で呼ばれている黒人のチンピラ青年。ハーレムのバーで知り合った黒人ギャングのアーチの手下として悪の道に入り、その後、強盗の罪で逮捕されて懲役の実刑判決を受ける。しかし、服役中に同じ受刑者であるベインズの話からイライジャ・ムハンマド師の率いるネーション・オブ・イスラムの存在を知り、彼自身もイスラム教に改宗する….


スパイク・リーの監督による黒人解放運動家マルコムXの伝記映画。

内容は、幼少期から様々な迫害を経験しながら育ったマルコムが、自らも悪の世界に足を踏み入れて行く前半部分と、出獄後、黒人解放運動家として次第に頭角を現していくも、組織内の対立により仲間から命を狙われるようになる後半部分からなっている。

この前半では、派手なスーツに身を包み、親友のショーティと一緒に街を闊歩するレッドの青春時代が描かれており、「ドゥ・ザ・ライト・シング(1989年)」に通じるようなノリでなかなか面白いのだが、後半、レッドからXへと名前が変わると彼の性格も一変してしまい、映画の雰囲気までやたらと真面目臭くなってしまう。

スパイク・リー自身、本作の映画化に当たっては相当の思い入れがあったのだと思うが、おそらくそのせいで後半のマルコムに対する暗殺計画もサスペンスを盛り上げるための娯楽的要素として使用されることはなく、彼とその妻ベティ(アンジェラ・バセット)とが暗殺者の影に怯える姿だけをひたすらフィルムに収めている。

こういった重苦しい演出に対しては、正直、文句の一つも付けたくなるところではあるが、それにもかかわらず、気付いてみれば202分という3時間を超える上映時間を結局最後まで付きあってしまった訳であり、まあ、そのことからすれば決して悪い作品ではないんだろう。(ただし、この作品を最初からもう一度見直そうとする人は、かなりの少数派だと思う。)

ということで、本作を見るまではマルコムXに対し、もっと過激で暴力的なイメージを抱いていたのだが、デンゼル・ワシントンの演じるXはいたって理論派であり、自ら暴力に加担するようなシーンは全く登場しない。これが事実なのかどうかは分からないが、他の作家が描いたマルコムX像も是非見てみたいと思います。