ノーカントリー

2007年作品
監督 ジョエル&イーサン・コーエン 出演 トミー・リー・ジョーンズハビエル・バルデム
(あらすじ)
ベトナム帰還兵のモスは、ハンティング中、激しい銃撃戦が行われた現場に出くわし、多くの死体に交じって放置されていた200万ドル入りのカバンを持ち逃げしてしまう。それが原因で、彼は麻薬組織の放った殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)に追われることになり、それを知った老保安官のベル(トミー・リー・ジョーンズ)もモスを保護するために二人の行方を追う….


2007年アカデミー賞の作品&監督賞受賞作。予備知識からすると、あまり俺の得意でないジャンルに属する作品らしいのだが、まあ、そこはお勉強ということで、ちょっと怖々という感じで拝見させて頂いた。

で、見てみての感想であるが、案の定、とっても怖い映画だった。その怖さの原因の99%は殺し屋シガーの存在にある訳であるが、あのマッシュルームカットと圧搾空気のボンベを持ち歩く姿は、普通に考えれば相当滑稽なのにもかかわらず、作中の彼は非人間的としか言いようのない不気味なオーラに包まれており、その登場シーンは異様な緊張感に支配される。

そして、そんな外見以上に怖いのが彼独特の行動規範であり、彼自身のルール、価値観の前では世間の常識や損得勘定は全く通用しない。したがって、相手は何故自分が殺されなくてはならないのか全く理解できないままに彼の圧搾空気銃の犠牲になっていく訳であり、正直、こんな人間とは一瞬たりともお付き合いしたくありませんっていう感じ。

本作の原題は「No Country for Old Men」というものであり、原作となった小説の時代設定が1980年代ということを考えれば、おそらくトミー・リー・ジョーンズ扮する老保安官の属する“ベトナム以前”の世代(=「Old Men」)とモス等の属する“ベトナム以降”の世代とのギャップが本作のテーマになっているだと思うが、現在の視点から考えると、さらにシガーの存在に象徴されるような“9.11以降”の世代(というか、非アメリカ的な行動規範を有する人々)とのより決定的なギャップというテーマも透けて見えてきそうな気がする。

ということで、本作が優れた作品であることに全く異論はないが、現代のOld Menである俺にとってやはり苦手な部類の作品であることは間違いなく、残念ながら、もう二度と見る気は起こらないだろうと思います。