バンド・ワゴン

1953年作品
監督 ヴィンセント・ミネリ 出演 フレッド・アステアシド・チャリシー
(あらすじ)
往年の名ダンサーのトニー・ハンター(フレッド・アステア)も、いまや人気は下り坂。そんな彼のために、親友のマートン夫妻は新作ミュージカル・コメディの脚本を書き上げるが、それを演出することになった芸術家肌のジェフリイは、その作品を“現代版ファウスト”に仕立てるべく、クラシック・バレエの新星ギャビイ・ジェラード(シド・チャリシー)をトニーの相手役に選んだ….


「ブロードウェイのバークレー夫妻(1949年)」だけではちょっと物足らなかったので、MGMミュージカルの傑作といわれる本作を鑑賞。

もう何回見たのか分らないが、楽しさという点では、「雨に唄えば(1952年)」なんかと並び、ミュージカル映画の中でも相当上位に位置づけられる作品であることは間違いない。特に、本作の強みは主演の二人以外の出演者が充実している点であり、マートン夫妻に扮するオスカー・レヴァントとナネット・ファブレイ、ジェフリイ役のジャック・ブキャナンといった連中が、とても存在感のある演技を見せてくれる。

オスカー・レヴァントは演技力の点では到底一流とは言い難く、他の作品ではいつもちょっと周囲から浮いたような印象があるんだけど、本作での彼はどこから見ても立派なコメディアンであり、見事に作品に馴染んでいる。ナネット・ファブレイも、コミカルな演技やダンスが不得意なシド・チャリシーの欠点を補って余りある大活躍であり、本作の楽しさは彼女抜きには語れない。

さらに、ジャック・ブキャナンの怪演ぶりも素晴らしく、特にスポンサーに対して新作のプレゼンをしているシーンは何度見ても面白い。前半はちょっと悪役的なポジションだったのが、後半、善玉に転向するんだけど、その変身の仕方が驚く程スマートで、作品の雰囲気を全く損なっていない。

一方、大役に抜擢されたシド・チャリシーは、確かに踊りは上手いし、しかも美人という誠に得難いキャラであるが、ダンス・シーンも含め、やはり演技力の不足が気になるところ。ジンジャー・ロジャースを見た後だから、余計そう思うのかも知れないが、ムードの盛り上げ方という点ではロジャースのほうが一枚上手だと思う。

ということで、名曲「That's Entertainment」は途中とラストの2回聴くことができるし、アステア、ファブレイ、ブキャナンのトリオによる「Triplets」は文句なしに楽しい。おそらく、これからも何度となく鑑賞することになる作品だと思います。