サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~

2019年
監督 ダリウス・マーダー 出演 リズ・アーメッド、オリヴィア・クック
(あらすじ)
ハードコアバンドのドラマーであるルーベン・ストーン(リズ・アーメッド)は、恋人でヴォーカルのルー(オリヴィア・クック)と一緒にライヴ活動をしながらキャンピングカーの旅を続けていた。そんなある日、聴覚の異常に気づいて専門医を受診した彼は、既に聴力のほとんどが失われており、極めて高額なインプラント手術を受けない限り、再生の見込みは無いことを告げられる…


今年のアカデミー賞候補として高く評価されている作品をアマプラで鑑賞。

まあ、当然のことではあるが、突然、聴覚障害者になってしまった主人公は素直にその現実を受け入れることができず、知人に紹介された支援コミュニティに嫌々入所してからも、なかなかそこでの生活に馴染むことができない。

そんな主人公を優しく導いてくれるのがコミュニティのリーダーであるジョー(ローレン・リドロフ)であり、やり場のない焦燥感に駆られる主人公に対して彼が与えた助言は、“何もするな。我慢できないときは何でも良いから文字を書け”というもの。おそらくそれが現実を受け入れるための最善手なのだろうが、同時に、今後の人生の目的、生き甲斐みたいなものを闇雲に模索することの愚かしさを主人公に教えたかったのではなかろうか。

しかし、ようやくコミュニティでの暮らしに慣れてきた主人公はどうしても昔の生活が諦めきれず、独断でインプラント手術を受けてしまうのだが、それを知らされたジョーのコメントは“ここでは誰も耳が聞こえないことを障害とは思っていない”というもの。手術を受けたのはその信念に反する行為であり、主人公はコミュニティから追放されてしまう。

まあ、このジョーの判断に対しては評価の分かれるところだが、それは経済的な理由等からインプラント手術を受けられない人に対する配慮というだけでなく、その手術に対する不信感のようなものも影響していたようであり、手術後の主人公が得たのは金属的な雑音にまみれた不快な聴力。タイトルの「サウンド・オブ・メタル」というのは、この音のことを意味していたんだね。

ということで、決して見て楽しい映画ではないが、様々な障害との向き合い方について深く考えさせてくれる作品であり、(諦めと言われてしまうかもしれないが)それを素直に受け入れた方が幸せになれる場合も決して少なくはないのだろう。主演のリズ・アーメッドとオリヴィア・クックの自然な演技も素晴らしく、アカデミー賞候補作に相応しい佳品でした。