格子なき牢獄

1938年作品
監督 レオニード・モギー 出演 アニー・デュコー、コリンヌ・リュシエール
(あらすじ)
冷酷なアペル院長が支配するサメリー矯正院に、新しい院長としてイヴォンヌ(アニー・デュコー)が赴任してくる。この人事の背景には、矯正院の嘱託医であり、イヴォンヌの婚約者でもあるマレシャル医師による上層部への働きかけがあったのだが、矯正院の改革にかけるイヴォンヌの信念は本物であり、脱走を繰り返していた少女ネリー(コリンヌ・リュシエール)の荒んだ心も次第に癒されていく….


我が国におけるコリンヌ・リュシエールの人気を決定付けた作品。

当初、副院長として院内に残った悪のアペル一派と正義の味方イヴォンヌとの間の権力闘争がメインテーマになるのかと思っていたのだが、どうやらイヴォンヌの考えというのは当時のフランス政府の方針とも一致していたらしく、体罰の禁止、居住環境の改善といった矯正院の改革は案外スムーズに進み、めでたく国立教護院へと生まれ変わる。

その後、ストーリーの焦点はネリーのマレシャル医師に対する初恋(?)の方へと移っていき、終盤、マレシャルを頂点とするイヴォンヌ、ネリーの三角関係が露呈してしまいそうになるのだが、イヴォンヌの驚異的な自制心により、首の皮一枚のところで何とか無事にハッピーエンドへとたどり着く。

最初は、婚約者が大病院の院長としてインドへ赴任するまでの腰掛くらいの気持ちで引き受けたものの、やがてデートの約束までスッポカしてしまうほどその仕事に没頭し、終いには一生の仕事と考えるようになるという、イヴォンヌの人間的な成長も上手く描かれており、“囚われているのは私たちの方だ”という彼女の最後のセリフを含め、なかなか良くできたシナリオだと思う。

また、この一本だけで公開当時の我が国の若者のハートを虜にしてしまったというコリンヌ・リュシエールの魅力は、今見ても十分納得できるところであり、公開当時17歳というその若々しさだけではなく、ハリウッド女優には見られない“素人っぽさ”が当時の若者の目に新鮮に映ったのだろう。

ということで、終盤におけるイヴォンヌの選択は、「カサブランカ(1942年)」でハンフリー・ボガートが演じた“ハードボイルドの権化”リックの行動を髣髴させるくらいのカッコ良さなのだが、実際にはこちらの方が4年早く公開されていたことになります。