悪魔の美しさ

1949年作品
監督 ルネ・クレール 出演 ミシェル・シモンジェラール・フィリップ
(あらすじ)
50年間勤めた大学を退官したファウスト博士(ミシェル・シモン)の目の前に、美青年の姿を借りた悪魔のメフィストジェラール・フィリップ)が現れる。博識なファウストは、悪魔との契約を交わすことを慎重に避けていたが、メフィストはそんな彼に無償で“若さ”を与え、一方的に美青年の姿へと変えてしまう。若返ったファウストはアンリという偽名を使い、一度過ぎ去った青春を再び謳歌するのだが….


ルネ・クレールが初めてジェラール・フィリップを起用した作品。

メフィストの作戦は、若返ったアンリ(ジェラール・フィリップの二役)を幸福の絶頂へと押し上げた後、再び絶望の底へ突き落とすというものであり、ファウスト博士になりすました彼は、錬金術を使ってアンリに富と名声を与えた上に、美しい王妃との恋愛までお膳立てしてくれる。そして、その直後、そんな“幸福”がすべて幻だったとアンリに信じ込ませ、激しく動揺する彼と契約を交わすことにまんまと成功する。

まあ、悪魔の超能力をもってすれば、そんな手の込んだマネをしなくても、他にいくらでも方法はあったと思うのだが、この作戦の仕上げ部分に限ってはあえて自らの超能力を封印し、重大な勘違いはあったにせよ、あくまでもアンリ自身の判断によって契約書にサインさせているところがかなり残酷。真実を知らされたときのアンリの後悔の念も、一段と深まったものと思われる。

ストーリーはゲーテの「ファウスト」の翻案とのことで、とてもスピーディーかつバラエティに富んでおり、一瞬たりとも目が離せない。悲しいかな、俺の勉強不足により、どこまでがオリジナルで、どこからがルネ・クレールのアイデアなのかさっぱり分からないのだが、科学技術の発達により凄まじい破壊力を持った兵器が開発される様を描いているのは、第二次大戦の終戦から間もない公開当時の世情を反映しているのだろう。

主演のミシェル・シモンは、偏屈そうな老ファウスト博士本人として登場した後は、メフィストが化けた躁状態の偽ファウストを演じているのだが、その少々大袈裟な演技から生み出されるユーモラスな雰囲気は、メフィストの悪魔的な残酷さを際立たせる格好のスパイスになっている。中和剤役を兼ねるジェラール・フィリップとのバランスも絶妙だった。

ということで、古典中の古典であるゲーテの「ファウスト」は、戯曲という形式に不慣れなこともあってこれまで未読なのだが、今後もこれを題材にした作品に出会う可能性を考慮すれば、やはり一度は読んでおくべきものなのでしょうか。