倫敦塔・幻影の盾他五篇

夏のロンドン旅行を前に、漱石の「倫敦塔」を読んでみた。

彼が、1900年10月から1902年12月までの2年間の英国留学中にロンドン塔を訪れたときの印象がベースになった短編小説なのだが、そこで処刑された人々に関するエピソードが幻想的な語り口で挿入されており、ちょっとゴシックロマンのような雰囲気さえ漂わせている。

残念ながら、作中に登場する故人たちに関する知識が俺に乏しいため、本作の面白さを堪能するには至らなかったようなのだが、渡英するまでにまだ時間があるので、英国の歴史を勉強してからもう一度読み直してみようと思った。

ということで、本書には他に6編の短編が収められているのだが、一番面白かったのは最後に収められている「趣味の遺伝」。途中から、主人公がある人物の消息を尋ねるという展開になるのだが、その調査方法が“遺伝学の応用”というあたりがいかにも漱石らしく、鴎外が「渋江抽斎」で採用したフィールドワーク的な手法とは見事なくらいの好対照をなしていました。