河

1951年作品
監督 ジャン・ルノワール 出演 パトリシア・ウォルターズ、トーマス・ブリーン
(あらすじ)
インドのベンガル地方にある製麻工場の支配人は子沢山の英国人。14歳になる長女のハリエット(パトリシア・ウォルターズ)は、4人の弟妹や年上の友人である工場主の娘ヴァレリーたちと遊びながら幸せに暮らしていたが、そんなところへアメリカから若き退役軍人のジョン大尉(トーマス・ブリーン)がやって来る。異国の地で育ったハリエットは、初めて見る白人の若者に胸をときめかせるのだが....


名匠ジャン・ルノワールがインドで撮った初のカラー作品。

ハリエットには、もう一人、英国人とインド人のハーフであるメラニーという友人がおり、年齢的にはメラニー(20歳くらい?)→ヴァレリー(18歳)→ハリエットの順。ハリエットは詩作の才能にも恵まれた聡明な少女なのだが、この年齢差は如何ともし難く、ジョン大尉を巡る恋争いでどうしても遅れをとってしまう。

このことはハリエットにとっては深刻な悩みなんだろうが、このジョン大尉自身、体と心に大きな傷を負ってインドくんだりまで落ち延びて来た人物であり、14歳の少女の初恋の相手として相応しくないのは火を見るより明らか。そのため、本人にとっては悲劇であっても、見ている方にしてみれば喜劇としか思えない。

そして、本当の悲劇は、彼女の家族や使用人が午後の平和なまどろみに身を委ねている最中に襲ってくる訳であり、それまでにイヤというほどその悲劇の予兆を見せられていた観客にとって、この前後の映像の“怖さ”は正に一級品。正直、今まで体験したことのない、不安感と無力感とが入り混じった不思議な気分を存分に味合わさせていただいた。

まあ、本作のテーマは、そんな個人レベルの悲劇や喜劇なんかはお構いなしに、数千年にわたって変わることなく流れ続けるガンジス川、そしてそれに象徴される当時のインド社会の人々の暮らしぶりな訳であるが、今となっては少々ベタなような気もするこのテーマについて、経済的に急速な成長を遂げつつある現在のインドの方々がどんな感想を抱くのか、ちょっと気になった。

ということで、インドという慣れない環境の中で撮ったとは思えないほど良くまとまった詩情あふれる佳品であり、カラー映像の美しさもとても魅力的。ジャン・ルノワールの凄さを改めて思い知らされました。