密告

1943年作品
監督 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 出演 ピエール・フレネー、ミシュリーヌ・フランセ
(あらすじ)
フランスのある田舎町。公立病院に勤務する産科医のジェルマン(ピエール・フレネー)あてに“カラス”というサイン入りの投書が送られてきた。そこには、同じ病院に勤務する精神科医ヴォルゼの妻ローラ(ミシュリーヌ・フランセ)と彼との不倫を告発する文章が記されていたが、これを皮切りに町の人々の知られたくない秘密を暴露するカラス名義の手紙が続々と配られ始める….


アンリ=ジョルジュ・クルーゾーの初期監督作品であり、ドイツ占領下で製作されたらしい。

誰が“カラス”なのか判らなくするためなんだろうけど、登場人物が全員イヤ〜な奴ばっかりであり、最初の方は見ていてちょっと戸惑ってしまう。「大いなる幻影(1937年)」で貴族出身の将校役を情感たっぷりに演じていた主演のピエール・フレネーにしても、そのときとは打って変った神経質そうな役柄に徹しており、息苦しいったらありゃしない。

後半になって、ジェルマンがみんなの前で自らの過去を告白し、同僚の精神科医の助けを借りながら犯人捜しに取り組むあたりから、ようやく彼の心情が理解できるようになり、ちょっとホッとするんだけれど、ラストのどんでん返しにしても、ヒッチコックのようなスカッとしたものではなく、どこか余韻を引きずるような終わり方で、まあ、このあたりにも早くもクルーゾーらしさが発揮されている。

ドイツ占領下ということもあってか、大規模なセットや派手なアクション・シーンがある訳ではなく、全体的にあまりお金をかけたような印象は無いものの、作品の一シーン一シーンがとても丁寧に描かれており、今見ても戦時中の物資不足を感じさせないあたりは大したもので、このへんに我が国との精神的な豊かさの差のようなものを感じてしまわないでもない。

ということで、脚本、演出ともに良く出来た作品だとは思うものの、ユーモアの欠片も感じさせないクルーゾー作品の雰囲気は俺にとってやはり取っ付きにくく、なかなかもう一度見てみようっていう気にさせないところが困りもの。誰か一人で良いからコメディリリーフを入れておいてくれれば、作品の印象も随分変わったろうにと思います。