祇園囃子

1953年作品
監督 溝口健二 出演 木暮実千代若尾文子
(あらすじ)
芸妓の美代春(木暮実千代)の家に母を亡くしたばかりの栄子(若尾文子)が訪ねてくる。彼女は“一人で生きていくために舞妓になりたい”と美代春に訴え、その熱意に負けた美代春は彼女を引き受けることになる。それから1年、舞妓の修行を終えた栄子は店に出るようになり、さっそく大会社の御曹司楠田に見初められるが….


溝口&依田コンビの作品であるが、原作は川口松太郎

まあ、祇園というところの“ホンネとタテマエ”みたいなもんなんだろうけど、芸妓とはいえ、美代春は旦那も持たずに一人で立派に生活しており、栄子もそんなところに憧れて彼女を頼ってきたのかも知れない。しかし、このタテマエにこだわる美代春も我が子同然に面倒を見てきた栄子の身を守るため、結局は好きでもない男に金で買われることになってしまう。

ということで、本作もまた悲劇的な結末を迎える訳であるが、この二人はこれで完全に敗北した訳ではなく、次に同じような状況に陥った場合にもきっと再び自分たちの信念を貫き通すべく努力するだろうし、それがダメでもいつかは必ず・・・そんな感じが見ている方に伝わってくるので、ラストシーンはむしろ前向きな印象。

したがって、「祇園の姉妹(1936年)」のラストのような衝撃はないが、まあ、これも溝口&依田コンビが大人になったということなんだろう。出てくる男どもが全員ダメ男ってところは、まったく変わって無かったけれどね。

美代春に扮する木暮実千代は、俺には結構現代的っていうか、ドライな役が似合う女優さんっていう印象があったけど、本作ではむしろ古風でプライドを持った役どころを見事に演じており、これにはちょっと驚いた。しかもなかなか色っぽい。

一方の若尾文子は、当時20歳。デビュー2年目というところで俺が今まで見た中では最も若い頃の作品になる訳だが、舞妓修行のシーンの初々しさや初めて出たお座敷で酔っ払ってしまうところの可愛らしさなんかは、名匠の演技指導のせいだけではなく、やはりこの時期だからこそっていうのもあると思う。