赤線地帯

1956年作品
監督 溝口健二 出演 若尾文子京マチ子
(あらすじ)
国会で売春禁止法案が審議されている頃の吉原。「夢の里」では売っ妓のやすみ(若尾文子)、失業中の夫と乳飲み子を養っているハナエ、故郷に残した一人息子の成長だけが生きがいのゆめ子といった娼婦たちが働いていた。そこへ若くて奔放なミッキー(京マチ子)も加わるが、売春禁止法の影響もあって店の景気は思わしくなかった….


溝口健二の遺作。

祇園囃子(1953年)」の祇園、「噂の女(1954年)」の島原に続いて、今回は吉原が舞台。場所柄の違いか、売春を巡る世論の変化によるものか判らないけれど、本作は前二作に感じられた“花街の風情”なんかとは全く無関係に、いたって即物的な売春婦の“実態”が描かれている。

溝口の売春に対するスタンスについても、これまでの“女性=被害者”という図式とは一線を画しており、騙した男から絞り取った金で事業を始める女や、女性としては比較的高額な報酬が目的で売春婦になった女を描くなど、まあ、ある意味でより“現代的”になっている。

そんな中で、我が身を犠牲にして育ててきた一人息子に裏切られ、発狂してしまうというゆめ子(三益愛子)のエピソードが最も衝撃的な訳であるが、内容的に本作の3年前に公開された木下恵介の「日本の悲劇(1953年)」とカブっているし、まあ、そんなこともあって全体的にちょっと通俗的という印象は否めない。映像面も含め、知らないで見ていたら溝口作品とはまず気付かないのではないだろうか。

出演者はなかなか豪華であり、主演の若尾文子「祇園囃子」から3年で見事な悪女になっているし、京マチ子も「雨月物語(1953年)」とは全く異なった現代的な役柄を大胆に演じている。一方、やはり「祇園囃子」に出ていたハナエ役の木暮実千代は、役柄から所帯やつれが目立つものの、演技自体はとても自然でイイ感じ。まだ全部見た訳ではないけれど、溝口作品に出ているときの彼女はとても魅力的だと思う。

ということで、これでTSUTAYAでレンタルできる溝口作品はあと「楊貴妃(1955年)」を残すのみになってしまった訳であるが、これって評価が著しく低そうなんで今のところ見る予定はない。未見の「西鶴一代女(1952年)」や「雪夫人絵図(1950年)」も一応DVDは出ているようなんで、とりあえずヤフオクあたりで探してみることにします。