キューポラのある街

1962年作品
監督 浦山桐郎 出演 吉永小百合東野英治郎
(あらすじ)
埼玉県川口市にある小さな鋳物工場が大企業に買収され、そこに長年勤める昔気質の石黒辰五郎(東野英治郎)ら数人がクビになってしまう。中学3年生になる娘のジュン(吉永小百合)は、高校に進学する資金を自分で稼ぐために周囲に内緒でパチンコ屋のアルバイトを始めるが、そんなところへ辰五郎の再就職の話が舞い込む….


吉永小百合の初期の代表作。俺は決してサユリストではないんだけど、まあ、お勉強ということで鑑賞。

舞台になるのは昭和30年代後半であり、高度成長期の真っただ中であるが、庶民の生活は楽ではない。俺自身の記憶を振り返ってみても、まあ、三度の食事に事欠くようなことはなかったものの、父親の失業といった非常事態が発生すればたちまち本作の石黒家のような状態に陥りかねないという状況とは決して無縁ではなかったように思う。

さて、本作ではジュンの高校進学問題を中心に、貧しい在日朝鮮人姉弟との交流なんかも絡めながらストーリーが展開していき、ラストでは彼女が働きながら定時制高校へ通うことが決まり、若い世代に明日への希望を託すというような形で終わる。まあ、これで一応のハッピーエンドということなんだろうが、彼女にとっての高校進学とは他人より抜きんでるがための手段に過ぎない訳であり、これが後の受験戦争へと繋がっていくことを知っている身としては、やや違和感が残るところ。

吉永小百合扮するジュンは才色兼備かつスポーツ万能という設定のためか、あまり悲惨さは感じられず、むしろ彼女の弟のタカユキと在日のサンキチとの間の友情のほうが感動的。また、彼女の相手役として有名な浜田光夫も出演しているが、恋人ではなくて優しい隣のお兄ちゃん役だった。

ということで、この当時を懐かしんで“昔は物は無かったけれど希望があった”などと仰る方も少なくないが、要は他人より抜きんでるための手段(=進学とか一流企業への就職)が今よりも分かり易い形で存在していたっていうだけの話。俺としてはノスタルジーに浸るんではなくて、そろそろ他人との出し抜きあいを止める方策を考えた方が良いのではと思うのだが、どうだろう。