山椒大夫

1954年作品
監督 溝口健二 出演 田中絹代香川京子
(あらすじ)
平安時代の末期。平正氏は困窮する百姓を救うため朝廷の命に背き、その罪で流刑に処せられる。妻の玉木(田中絹代)は厨子王と安寿(香川京子)を連れて旅に出るが、途中で人買いの一味に騙されて親子は離ればなれに。幼い兄妹は山椒大夫の荘園へ引き取られるが、そこで二人を待っていたのは奴婢としての過酷な生活であった….


森鴎外の名作の映画化。俺は大昔に「安寿と厨子王」という子供向けの本で読んだ記憶があり、そっちでは離ればなれになった後の母親の境遇が良く分らなかったんだけど、この作品を見てよーく納得。母親が遊女にされるという部分が、お子様向けに割愛されていたんだね。

それと、キャスティングの都合で本のほうではお姉さんだった安寿がこっちでは厨子王の妹になっていたりと、他にもいくつか原作とは異なるところがあるそうだが、平安末期における貴族と武士、それに僧侶の間の微妙な関係なんかが上手に描かれていて、とても興味深かった。

ただ、山椒大夫のもとを逃げ出した厨子王が関白によって国守に取り立てられ、奴婢を開放するっていう展開は、原作ではどうなっていたのかちょっと気になる。いや、彼の行動は確かにリンカーン並の偉業だとは思うんだけど、当時の人権意識(?)からすると、おそらく彼がいなくなった途端、即元通りになったんじゃないのかなあ。

溝口作品では毎度おなじみの田中絹代は、これまで見た中では本作が一番適役だったと思うんだが、それでも遊女として客を取らされるシーンが描かれていなかったり、老婆になっても顔や手にほとんど皺がなかったりするあたりはちょっと不満。まあ、当時の観客にとって彼女はそういう俳優さんだったのかもしれない(=今でいうと、吉永小百合あたり。)けど、残念ながら俺には理解できません。

一方、安寿役に扮するのは当時23歳の香川京子で、「東京物語(1953年)」の翌年になるのだが、やはりとてもお美しい。しかも、本作ではちょっと頼りない兄の厨子王を励まし、わが身を犠牲にして彼を脱出させるという健気な役どころで、これもなかなか良かった。また、進藤英太郎浪花千栄子といった個性的な脇役陣も懐かしかったです。