タバコ・ロード

1941年作品
監督 ジョン・フォード 出演 チャーリー・グレイプウィン、マージョリーランボー
(あらすじ)
1930年代初頭のジョージア州。時代から取り残された“タバコ・ロード”沿線にジーター(チャーリー・グレイプウィン)一家は住んでいたが、耕地はやせ衰え、種や肥料はおろか、日々の食糧の確保にも事欠く始末。そのうえ、頼りにしていた地主が土地の権利を手放してしまったことから、銀行から立ち退きを迫られることになり、ジーターは地代の100ドルを工面するため、息子の嫁であるベッシー(マージョリーランボー)の資産に目をつける….


巨匠ジョン・フォードの作品であるが、日本では長らく未公開のままで、1988年になってようやく公開された。

ジーター一家の住む一帯は、かつては綿や煙草の栽培で栄えていたんだろうが、今ではもう何年もの間、収穫がないような状態。そのため、付近に住んでいた住民のほとんどはこの土地を見捨てて都会へ出て行ってしまい、ジーターのように町の暮らしが性に合わない人たちだけが、痩せた土地にしがみつくようにして生きてきた。

ところが、銀行からの立ち退き要求によってその土地までも手放さなくてはならず、行き場所を失ったジーターたちはもはや貧乏農場に行くしかない・・・とストーリーだけを書くと相当に悲惨な話しなんだけど、登場人物の方は何故か無意味にテンションが高く、まるでドタバタ喜劇を見ているような印象。

主人公のジーターは、まあ、真の悪人ではないんだろうが、倫理観や勤労意欲のほうは相当に希薄であり、ドロボーなんかしてもあんまり気にしない。そして、その息子はというと、これが万年躁状態というとんでもないキャラで、正直、見ていてとっても癇に障るタイプ。最後の最後になって、このバカ息子が義理の弟に殴り倒されたときは、とってもスッキリしました。

そんな彼等のドタバタ騒ぎが終わり、万策尽きたジーター夫婦が貧乏農場への道を歩いて行くシーンは、雰囲気がそれまでとガラッと変わり、ジョン・フォードらしい詩情が漂ってくる。そして、そこに元地主が現れ、彼が半年分の地代を肩代わりしてくれたお陰で、再び家に戻ることができたってところで、一応のハッピーエンド。でも、これって問題を半年間先延ばししただけで、本当は何の解決にもなっていないんだよね。

ということで、同じ年に名作「わが谷は緑なりき(1941年)」を発表したフォードの作品としては相当の異色作で、日本での公開が遅れた理由もなんとなく分かるような気がする。それと、ジーターの娘役でジーン・ティアニーが出演しているんだけど、これも“何故、彼女がこんな役を!?”というくらいちょっと信じられない配役。まあ、そんなところも含め、なんとも不思議な感覚の珍品でありました。