家族の肖像

1974年
監督 ルキノ・ヴィスコンティ 出演 バート・ランカスター 、ヘルムート・バーガー
(あらすじ)
ローマ市内で一人静かに暮らしている老教授(バート・ランカスター)の前に、突然、“2階を間借りしたい”という奇妙な女性ビアンカが現れる。実際に住むのは彼女の愛人であるコンラッドヘルムート・バーガー)という美青年なのだが、弁護士の勧めもあって渋々その申し出を受けることにした教授は、コンラッド等の無遠慮な振舞いによってそれまでの平穏な暮らしを滅茶苦茶にされてしまう…


名匠ルキノ・ヴィスコンティが亡くなる2年前に公開された作品。

前作「ルートヴィヒ(1972年)」の撮影中に発症した脳梗塞の後遺症によって、ヴィスコンティはこのとき既に歩行困難の状態になっていたそうであり、その影響もあって、本作の撮影はすべてバート・ランカスター扮する老教授の住んでいる屋敷のセット内で行われている。

しかし、その屋敷の内部は貴族の末裔らしい上品な家具や美術品で飾り付けられており、巨大な図書室の奥には隠し部屋まで配置されている。そんな誠に羨ましい環境に包まれて一人静かな余生を送っている主人公の趣味は、“Conversation Piece”と呼ばれる18世紀英国で流行した“家族の団欒を描いた絵画”の収集であり、それが本作の原題になっている。

さて、そんな生活にズカズカと乗り込んできたのが、伯爵夫人のビアンカとその娘リエッタ、それにそれぞれの愛人らしいコンラッドとステファノの4人組。決して悪人ではないのだが、突然押し掛けてきて主人公の前でケンカを始めたり、約束をすっぽかしたり、室内で歩きタバコをしたり等々、やりたい放題を繰り返す。

しかし、そんな彼らの無遠慮さの中にどこか“家族”に似た温もりを感じてしまうというのが本作のキモであり、特に、過激な左翼思想に傾倒しつつも、絵画や音楽への意外な造詣の深さを感じさせるコンラッドに対しては、(おそらく持つことが叶わなかった)自分の息子のような愛着を覚えてしまう。

“一人で寂しくないの?”という問に、“カラスは群れて飛び、鷲は一羽で舞い上がる”と強がって答えて見せた主人公だったが、無意識のうちに家族の温もりを求めていたのは紛れもない事実であり、うーん、公開当時68歳だったヴィスコンティはどんな気持ちで本作を監督したのだろう?

ということで、U-NEXTには本作以外にも「ルートヴィヒ」、「イノセント(1976年)」といった晩年のヴィスコンティ作品が揃っており、これから見るのがとても楽しみ。正直、若い頃にはあまりピンとこなかったが、老人の悲哀(?)を身に染みて理解できるようになった今になって見ると、またひと味違った感動が味わえるような気がします。