2012年作品
監督 周防正行 出演 草刈民代、役所広司
(あらすじ)
天音中央病院の呼吸器内科に勤務する医師の折井綾乃(草刈民代)は、重度の喘息により入退院を繰り返す江木秦三(役所広司)の主治医。不倫関係にあった同僚医師の裏切りに遭い自殺未遂を起こしてしまった彼女は、江木との穏やかな交流を通じて立ち直り、二人の間にはいつしか強い信頼関係が築かれていく。そんなある日、折井は退院していた江木から重大な決意を打ち明けられる….
周防監督が「それでもボクはやってない(2007年)」から5年ぶりに発表した非ドキュメンタリー作品。
その決意というのが、死を覚悟した江木の折井に対する“終の信託”であり、すなわち、自分が植物状態に陥った場合における延命治療中止のタイミングの判断を、家族にではなく、折井に任せるというもの。優しすぎるところがある彼の妻にその判断をさせることは酷であり、結果的に植物状態のままチューブに繋がれたままの状態が無用に長引いてしまうことを恐れたのだろう。
正直、患者がこのように信頼できる主治医に巡り会えるというのは非常に幸運なことであり、折井はこの信託に基づいて植物状態に陥った江木の延命治療を中止してメデタシメデタシということになるのかと思いきや、突如、彼女の前に検察という名前の壁が立ちはだかり、彼女の行為が、当事者の意思とは無関係に、裁判所の判例によって“殺人”として裁かれてしまう。
まあ、大沢たかお扮する検事の取調べを非常にいやらしく描いていることからも分かるとおり、周防監督は(俺と同じく)この判決を不当なものだと考えているのだと思うが、「それでもボクはやってない」とは違って、その彼の考えが観客に強く伝わってこないところが非常にもどかしい。
その主な原因は、草刈民代の演じる主人公のキャラクター設定を少々複雑化しすぎたところにあり、彼女の自殺未遂のエピソードなんかはボツにして、もっと尊厳死の問題を正面からストレートに取り上げるべきだったと思う。
ということで、本作の悲劇の根本的な原因は、死の問題を裁判所という法律の専門家集団の判断に委ねてしまっているところであり、これに関する国民的な議論を先送りしている間は、責任を取らされること恐れる医療従事者たちの手によって、望まれない延命治療が続けられることになるのでしょう。