凶悪

2013年作品
監督 白石和彌 出演 山田孝之ピエール瀧
(あらすじ)
須藤純次(ピエール瀧)は殺人や放火の罪で死刑判決を受け、現在、最高裁に上告中の凶悪な犯罪者。そんな彼からの手紙がスクープ雑誌「明潮24」の編集部に届けられ、記者の藤井修一(山田孝之)が拘置所に面会に行くことになるが、そこで語られたのは闇に葬られたままになっている3件の殺人事件であり、それらの首謀者は須藤が“先生”と呼ぶ不動産ブローカーの木村だった…


一部で(?)非常に高い評価を受けている実際に起きた事件を基にした犯罪映画。

題名の付け方からして、ノンフィクション・ノベルの傑作「冷血」を意識しているのは間違いないと思うのだが、本来、狂言回し的なポジションであるべき雑誌記者の藤井を主人公に据えたのは、作者のトルーマン・カポーティが「冷血」を書き上げるまでの経緯を描いた映画の「カポーティ(2005年)」の方の影響なのかもしれない。

この「カポーティ」の素晴らしいところは、「冷血」を書くための取材活動の様子を通して、作家であるカポーティ自身の内面に秘められたもう一つの“冷血”の存在を明らかにしたところなのだが、本作のラストが、あたかも記者の藤井の方が拘置所に入れられてしまったかのような映像で終わっているのも、藤井自身に潜む“凶悪”の存在を示唆した演出のように思われる。

確かに、藤井にも、痴呆になりかけている自分の老母の問題から目を背け、介護のために疲弊した妻の洋子の訴えに耳を貸そうとしないという意味での“悪”は認められるのだが、そうはいっても、これを根拠に須藤や木村の“凶悪”と同等に取り扱おうとするのはいくらなんでも無理であり、見ている途中で何度か違和感を覚えるシーンがあった。

ある意味、単純な強盗殺人事件を扱っていた「冷血」に比べ、本作に登場する犯罪の方がより複雑でより社会的な背景を有しているのだから、変な小細工は止めにして、事件の背景をストレートに深く掘り下げていった方がさらに面白い作品になったような気がした。

ということで、「終の信託(2012年)」と似たような結論になってしまったのだが、こちらで議論されるべきなのは“死”の一歩手前である“老い”に関する問題。本作で犠牲となるのは、いずれも身寄りが無いか、あっても邪魔者扱いされているお年寄りばかりであり、彼等が木村や実在する多くの詐欺師たちにとっての“油田”であり続けることのないよう、国民の間で老いに関するきっちりとした議論が行われる必要があるでしょう。