ブラッドシンプル ザ・スリラー

1999年作品
監督 ジョエル・コーエン 出演 ジョン・ゲッツフランシス・マクドーマンド
(あらすじ)
テキサスの田舎町。酒場の経営者マーティの妻アビー(フランシス・マクドーマンド)は、従業員のレイ(ジョン・ゲッツ)と二人で深夜のデートに出掛けるが、マーティの雇った私立探偵に尾行され、浮気したことがバレてしまう。最初は自分で落とし前をつけるつもりだったマーティであるが、アビーの思わぬ反撃に合って失敗。気のおさまらない彼は、私立探偵に彼女らの殺害を依頼するが….


コーエン兄弟のデビュー作「ブラッド・シンプル1984年)」の再編集版。

相当限られた低予算で製作された作品らしく、主な登場人物はマーティ、アビー、レイ、それに私立探偵の4人だけ。発端は単なる人妻の浮気の話なのだが、何故か最初から異様な緊張感に包まれたままストーリーは進んでいき、遂には凄惨な殺し合いに発展。結局、アビー一人だけが生き残る。

マーティとアビーの夫婦は、お互いに相手の頭がおかしいと思い合っているらしいのだが、実のところ一番狂っていたのはマーティに雇われた私立探偵であり、1万ドルでアビーとレイの殺害を請け負うものの、実際はマーティを殺して1万ドルを持ち逃げしてしまう。

確かに、1万ドルで2人を殺し、しかも情緒不安定な共犯者を残すよりも、1人殺して1万ドルを手に入れる方が合理的なのはそのとおりなのだが、そんな思考の基礎となるどこか歪んだ合理性というものがとても恐ろしく、おそらく、彼の延長線上に「ノーカントリー(2007年)」の殺し屋アントン・シガーが存在するのだろう。

また、最初から最後まで緊張感を途切らすことのないコーエン兄弟の演出も見事であり、特にラストのアビーと私立探偵との対決シーンはアイデア、迫力ともに満点。元が1980年代の作品ということで、今の映画のように大量の血がドバーッと流れるようなことはないし、直截的な残酷表現もむしろ控え目といって良いくらいなのだが、その衝撃度の強さは本当にトラウマになりそうなくらいだった。

ということで、正直、通常の俺の嗜好からは相当ハズれた作品なのだが、それにもかかわらず、最後まで目を離せなかったことも紛れの無い事実。これまでのところコーエン兄弟の作品はあまり見ていないのだが、今後どうしようか大いに悩ませてくれる映画でした。