善き人のためのソナタ

2006年作品
監督 フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 出演 ウルリッヒ・ミューエ、セバスチャン・コッホ
(あらすじ)
旧東ドイツの国家保安省(シュタージ)に勤務するヴィースラー大尉(ウルリッヒ・ミューエ)は、上司から劇作家のドライマン(セバスチャン・コッホ)に反体制的な動きがないか監視するように命令される。しかし、その命令がドライマンの恋人である舞台女優のクリスタに目を付けた文化大臣の差し金であることに気づいたヴィースラーは….


第79回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したドイツ映画。

結局、ヴィースラーは、文化大臣からの誘いに応じようとするクリスタを一ファンを装って思い止まらせたり、ドライマンが反体制的記事を西ドイツの雑誌に投稿するのを虚偽の盗聴記録を作成して見逃したりするようになる。

元々忠実な国家保安省職員であった彼が国家を裏切るようになったのには、文化大臣の行動に見られるような上層部の腐敗に対する怒りという公的な動機もあったのだろうが、それ以上に、孤独な自分には望みえない理想的な恋愛関係の成就という願望をドライマンとクリスタの二人に託すという私的な動機のほうがより大きかったんだろうと思う。

上映時間は138分とちょっと長めなんだけど、この後、東西ドイツが統合され、ドライマンがヴィースラーのしてくれた“配慮”に気付くまでを丁寧に描いており、最後まで飽きさせない。

まあ、確かに彼はドライマンにとっては命の恩人かもしれないが、一般的には国家のイヌだった訳であり、決して許されるべき存在ではないのだろう。事実、統合後のドイツにおける彼の暮らし向きはあまりパッとしたものではないようだが、本作ではそんなヴィースラーのためにラストで素敵なオチを用意しており、このへんの配慮は見ていてとても嬉しかった。

ということで、監督のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクはなんと本作が長編第一作目とのことであり、こんな立派な作品を撮ることが出来る若手監督のいるドイツ映画界は誠に羨ましいかぎり。日本でも、早く彼並みのしっかりとした実力の持ち主が出てきてくれることを期待します。