犬ヶ島

今日は、妻&娘と一緒にウェス・アンダーソンの新作「犬ヶ島」を見てきた。

良作「ファンタスティック Mr.FOX(2009年)」以来久々のストップモーション・アニメということで楽しみにしていたのだが、近場のシネコンでは例によって吹替え版の上映が優先されており、字幕版は夜間の2回だけ。相当迷ったが、声優に坂上忍の名前が無いことを確認してから吹替え版を選択し、ちょっぴり無念な気持ちを抱えたまま映画館へ向う。

さて、原題は「Isle of Dogs」なのだが、最初に少年剣士が出てきたりすることから、やはりちょっとは“桃太郎”を意識しているのかなあ。ただし、本作の主人公であるアタリ少年は(本家同様、養子ではあるものの)頭部に鉄パイプの突き刺さった鬼の姿で登場し、犬ヶ島に閉じ込められた犬たちを救出するために奮闘する。

見ていてまず驚かされるのは、ストップモーション・アニメの手法による映像の素晴らしさであり、とにかくすべてが繊細で手が込んでいる。かなりの時間をかけて撮影されたと思われる映像に含まれる情報量は厖大で、何かにちょっと気を取られているスキに別の何かを見逃してしまうんじゃないかと不安になってしまうくらい。

しかし、“見逃したものは、後日、DVDで見直せばいいさ”と開き直ってからは、ウェス・アンダーソンらしい可愛らしさとグロテスクさとが同居した不思議な映像世界を堪能。舞台になるのは20年後の日本という設定なのだが、日本らしさを感じさせないのは「ベイマックス(2014年)」以上であり、この無国籍な感覚もいかにも彼らしい。

さて、ストーリーのモチーフになっているのはおそらく西欧諸国における移民問題であり、長らく一緒に暮らしてきた隣人を民衆の不満のハケ口に利用するのはナチスユダヤ人排斥と同じ手口。この問題を西欧諸国を舞台にして描いた場合の“生々しさ”を避けるため、それに対する関心の薄い日本を舞台に選んだのかもしれないなあ。

しかし、あくまで偶然なんだろうが、本作で描かれている政治家の横暴や良識ある人々の無力感は、モリ・カケ問題に揺れる我が国の現状に通じるものがあり、それに気付いてからは主人公たちの行動が急に身近なものに思えてくる。願わくば、決して諦めないという彼らの強い気持ちが我が国の良識ある人々に勇気を与えてくれることを期待したい。

ということで、吹替え版にもかかわらず、英語と日本語とが錯綜する仕様になっており、どこからが吹替えなのか考えながら見ていたら頭が混乱してしまった。いずれにしても、“お子様向けアニメじゃないんだから、吹替え版優先は勘弁してよ”というのが良識ある映画ファンの本音だと思います。