産霊山秘録

第一回泉鏡花賞に輝いた半村良のSF伝奇ロマン。

高皇産霊神の末裔であり、かつては皇室のさらにその上に位したといわれる〈ヒ〉一族の活躍を描いた8編の連作小説が収められているのだが、舞台は戦国時代から現代までの約400年間にわたっており登場人物も多種多彩。最初は皇室を背後から支える“勅忍”として活躍するのだが、時代が進むにつれて一族のアイデンティティーが徐々に失われていってしまうのがもの悲しい。

正直、“明智光秀の正体は〈ヒ〉一族であり、朝廷を滅ぼそうとする織田信長の秘めた野望に気付き、それを頓挫させようとしたのが本能寺の変の真相である”みたいなアイデアは、本作が発表された1973年以降、似たような作品が数多く発表されたことによってすっかり陳腐化されてしまっており、その当時の読者が受けたであろう衝撃をもはや味わうことが出来ないのはとても残念。本書を手にするのが40年くらい遅かった。

しかし、猿飛佐助や鼠小僧(=当然、彼らも〈ヒ〉一族の一員である。)といった比較的手垢の付いていないキャラクターが活躍する作品は今読んでも十分に面白く、特に猿飛佐助の華麗なアクションシーンを堪能することが出来る「神州畸人境」は一番のオススメ。他の作品では勅忍の強さがなかなかストレートに伝わってこないだよね。

ということで、半村良としては比較的早い時期に属する作品なのだが、後の「妖星伝」に繋がるようなユニークな死生観が顔を出したり、「晴れた空」の原型みたいな元気一杯の戦災孤児が登場するなど、興味深いところも少なくない。次は、彼の書いた伝奇もの以外の作品を読んでみようと思います。