奈良旅行の二日目は、午前中に吉野山の世界遺産を駆け足で巡り、午後はレンタサイクルで飛鳥の遺跡群をのんびり見学する予定。
吉野の道は狭そうなので、混む前に車で回ってしまおうと午前8時過ぎにB&Bを出発。幸い(?)まだ桜の時期には早いため道路は空いており、9時前に奥千本にある金峯神社に到着する。ここも世界遺産の一つなのだが、正直、社の内部はスカスカで見るべきものはなく、義経伝説があるという隠れ塔を見学したくらいで次に進む。
二つ目の世界遺産である吉野水分神社も無料で参拝できるのだが、本殿と拝殿とがコの字のように繋がっているという珍しい様式の建物であり、雰囲気もなかなか悪くない。次の竹林院は、現在では宿泊施設として利用されているようであり、入園料を支払って群芳園という庭園を見学させて頂いた。
後醍醐天皇陵のある如意輪寺は吉野のメインストリートからちょっと離れた位置にあるのだが、藤村の「夜明け前」の主人公が憧れた建武の新政の立役者のお墓となれば見過ごす訳にはいかない。宮内庁の設置した看板には“塔尾陵”と記されていたが、塔尾というのはこのお墓のある如意輪寺の裏山のことらしい。
三つ目の世界遺産である金峯山寺には駐車場が無いので、下千本駐車場まで車で下りてきてそこから歩いて行く。入り口にある仁王門は改修中のため良く見えなかったが、同じく国宝の蔵王堂の偉容は想像以上であり、内部の太い円柱状の柱ももの凄い迫力。特別ご開帳は4月1日からなので本尊の秘仏蔵王権現は見られなかったが、あの柱を見られただけで十分納得のいくお寺だった。
四つ目の世界遺産である吉水神社にもそのまま歩いて行くが、こちらは源義経、後醍醐天皇、豊臣秀吉といった歴史上の有名人物のオンパレードであり、彼らに因んだ居室や遺品が数多く展示されている。“南朝の皇居”とは銘打っていても宮内庁所管という訳ではないので、少々眉唾なものも混じっているのだろうが、まあ、それも一興ということで。
これで予定どおり全ての世界遺産をコンプリートしたので、「弁慶」というお店で葛うどん&葛もち(俺)、葛そうめん&葛きり(妻)という葛づくしの昼食を食べ、柿の葉寿司や葛菓子等々のお土産を購入してから吉野を後にする。間もなく始まる桜のシーズンにはもの凄い人出になるのだろうが、いつかその時期に再訪してみるのも悪くないかなあ。
さて、B&Bに戻る途中、妻からのリクエストでキトラ古墳に立ち寄ってみるが、周囲は現在工事中であり、おそらく昨日行った高松塚古墳と同様、きれいな公園風に仕上げる予定なんだろう。しかし、自然豊かな吉野山からの帰り道ということもあって、あまりに人工的な景観には素直に馴染めなかった。
午後はレンタサイクルで飛鳥巡りの予定であり、B&Bの駐車場に車を置いて、あらかじめ調べておいた「堂ノ前レンタサイクル」まで歩いて行くが、不思議なことにどこにも店舗が見当たらない。仕方が無いのでそのまま石舞台古墳まで歩いて行って「明日香レンタサイクル石舞台営業所」で自転車を借り、ようやく飛鳥巡りのスタート。
きれいに整備された石舞台古墳の印象はキトラ古墳と同様であり、周囲を一周したくらいで先に進む。岡寺へ向かう途中の上り坂では妻用に借りた電動アシスト付き自転車が威力を発揮し、駐輪場から先は急な石段を歩いて上っていく。境内には仁王門、本堂、三重塔など多くの伽藍が建っており、ご本尊の如意輪観音座像もなかなか味わい深い。
次の伝板蓋宮跡は大化の改新の契機となった乙巳の変の舞台であり、飛鳥のフォロ・ロマーノとも言うべき場所なのだが、俺の乏しい想像力ではイメージの再現は到底無理。その北にある飛鳥寺も往事の数分の一のスケールしかないという半分遺跡みたいなお寺なのだが、内部に安置されている飛鳥大仏と厩戸皇子立像が共に素晴らしく、山岸凉子の「日出処の天子」に登場する厩戸王子のイメージは後者からの影響が大きかったのではなかろうか。
その後、蘇我入鹿首塚と水落遺跡を見学してから、いよいよ甘樫丘へ向かう。こちらも公園として整備されてしまっているが、頂上からは、おそらく飛鳥時代とそう変わらないであろう天香久山、畝傍山、耳成山の大和三山の姿を眺めることが出来、気分は上々。蘇我蝦夷もこれと同じ景色を毎日楽しんでいたんだろうなあ。
次は川原寺跡へ向かう予定だったが、道を間違えてしまい、亀石の前を通って橘寺へ。聖徳太子の生誕の地とされており、本堂の太子堂には聖徳太子坐像が安置されているが、飛鳥寺の厩戸皇子立像の美しさ(?)には遠く及ばない。しかし、太子の法力のおかげか、ここだけ境内の桜が満開であった。
ということで、最後の川原寺跡に立ち寄った後、明日香レンタサイクルの亀石営業所に自転車を返却。コンビニで買ったアイスクリームを食べ歩きしながらB&Bに戻り、車で橿原市のイタ飯屋まで出掛けて行ってようやく夕食にありつく。明日香村にレストランの類いが少ないのはちょっと不便だが、景観保護のためには仕方ないことなのでしょう。