2013年作品
監督 ウェス・アンダーソン 出演 レイフ・ファインズ、F.マーレイ・エイブラハム
(あらすじ)
1932年、架空の国ズブロフカ共和国。移民の少年ゼロ・ムスタファ(F.マーレイ・エイブラハム)は、名コンシェルジュのグスタヴ・H(レイフ・ファインズ)が取り仕切るグランド・ブタペスト・ホテルのベルボーイ見習いとして働くことになる。ちょうどその頃、グスタヴと親密な関係にあった常連客のマダムDが謎の死を遂げ、莫大な遺産の中から名画“リンゴを持つ少年”が彼に遺贈されることに….
ウェス・アンダーソン監督の作品を見るのはこれが初めて。
ゼロをお供にしてマダムDの葬儀に駆けつけたグスタヴであるが、彼女の息子であるドミトリーは遺産を独り占めするためにグスタヴが母親を殺害したことにしようとする。そんな動きを察知したグスタヴとゼロは、“リンゴを持つ少年”と一緒にマダムDの屋敷を抜け出し、ここからヨーロッパを股にかけた一大追跡劇が幕を開ける!
主役のレイフ・ファインズをはじめ、エドワード・ノートン、ウィレム・デフォー、ジュード・ロウといった豪華俳優陣が、深刻そうな表情をしながらドタバタの追いかけっこを繰り広げる内容であり、ナチス・ドイツの台頭する第二次世界大戦直前を思わせる暗い時代背景にもかかわらず、映像はカラフルでとてもお洒落。
最初、ロバート・ベンチリーあたりのユーモア小説がベースになっているのかと思っていたのだが、たまたま目にした映画評論家の町山智浩氏の解説によると、エンドクレジットに“シュテファン・ツヴァイクの著作にインスパイアされた”旨の表示があったそうであり、このツヴァイクというユダヤ人作家、1942年2月に当時の世情を憂いて奥さんと一緒に服毒自殺を遂げた人らしい。
要するに、バカバカしいストーリーを深刻そうに描いていたのではなく、深刻なテーマをバカバカしい演出で描いていた訳であり、最後にグランド・ブタペスト・ホテルを受け継いだのが非ヨーロッパ人というオチは、現在の世界情勢に関するウェス・アンダーソン自身の絶望感(?)が加味されているのかもしれない。
ということで、エンドロールの片隅で踊ってるロシア人を含め、ウェス・アンダーソン作品の第一印象は上々であり、彼の旧作も見てみるつもりなのだが、それ以上に興味が湧いたのはシュテファン・ツヴァイクの方。幸い、遺作となった「昨日の世界」の邦訳も出ているようなので、機会を見つけて読んでみようと思います。