レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ

1989年作品
監督 アキ・カウリスマキ 出演 マッティ・ペロンパー、ザ・レニングラードカウボーイズ
(あらすじ)
ツンドラ地帯でバンド活動を続けていたレニングラードカウボーイズは、マネージャーのウラジミール(マッティ・ペロンパー)の鶴の一声で、アメリカへの武者修行の旅に出掛けることになる。しかし、ロシア民謡の影響の色濃い彼等の演奏スタイルは、ロックンロール全盛のニューヨークでは受け入れてもらえず、最初の仕事に決まったのはメキシコでの結婚式の余興だった….


アキ・カウリスマキが「マッチ工場の少女(1990年)」の前年に発表した彼の出世作

有り金をはたいて中古のキャデラックを手に入れたレニングラードカウボーイズの面々は、場末の酒場で演奏して日銭を稼ぎながら、律儀にも一路メキシコを目指す。そして、その過程で着実にロックンロールを身に付けていった彼等は、目的地のメキシコで大ブレイクし、見事、Top10に入る人気バンドへと成長する、というサクセスストーリーなのだが、その実態は完全な脱力系のコメディ映画。

だいたい、最初に登場する彼等の姿からして相当珍妙であり、30cmくらい前方に突き出した長〜いリーゼントヘアーと、同じくらいつま先の長〜い靴が彼等のトレードマーク。しかも、それらは彼等自身のファッションというより、彼等の住んでいる地方の風俗らしく、家族はおろか飼い犬までもがこの格好というのが笑わせてくれる。

まあ、カウリスマキ作品の例に漏れず、本作でもセリフは少な目であり、ハリウッド映画のようにウィットに富んだ会話のやり取りで笑いを取ることは不可能なのだが、それに代わって笑いを提供してくれるのが、このバンドの醸し出す社会主義的退廃感とアメリカ南部特有の怠惰な雰囲気との奇妙なギャップ。両者とも同じ田舎者には相違ないのだが、その微妙な差が観客のクスクス笑いの回路をくすぐってくる、っていう感じかなあ。

なお、形式的には、一応ロードムービーのジャンルに分類されるのかもしれないが、バンドのメンバーと訪問先の人々との個人的な交流がほとんど描かれていないのがとても残念であり、俺の感覚によれば、本作はロードムービーには該当しない。そういえば、「愛しのタチアナ(1994年)」を見たときにもこれと同じような印象を受けた。

ということで、マッティ・ペロンパー扮する悪徳マネージャーのウラジミールは、社会主義国家におけるプロレタリア独裁カリカチュアなのだろうが、フィンランド人であるアキ・カウリスマキがそれを取り上げた理由については皆目見当が付きません。