舟を編む

2013年作品
監督 石井裕也 出演 松田龍平宮崎あおい
(あらすじ)
1995年。玄武書房の辞書編集部では、新しい辞書“大渡海”の編纂作業が始まろうとしていたが、その矢先、ベテラン編集者の荒木が定年退職することになってしまい、後任に営業部の新人である馬締光也(松田龍平)が選ばれる。他人とのコミュニケーションをとることが苦手なために営業部では浮いた存在だった彼も、辞書の世界の奥深さに触れることにより、いつしか辞書作りに没頭していく….


妻のリクエストにお応えして家族で鑑賞。

新しい辞書の編纂作業には20年以上の時間がかかるそうであり、本作でも2時間を超える上映時間の大部分はその地味な編纂作業の描写に充てられている。最大の例外は、主人公が住んでいる下宿屋の大家の孫である香具矢(宮崎あおい)との恋愛に関するエピソードであるが、それも波乱らしい波乱もなしにあっさり成就してしまい、主人公は再び辞書の編纂作業へと舞い戻る。

したがって、ストーリー的にも、映像的にも非常に地味な作品であり、ハラハラドキドキするシーンも、感動的なシーンもほとんど出てこないのだが、それにもかかわらず、133分の間、観客の興味をしっかり繋ぎ止めておけるのはなかなか大したことであり、一緒に見ていた妻も娘も十分満足したらしい。

しかし、へそ曲がりの俺に言わせれば、本作の魅力は“仲良きことは美しき哉”という色紙みたいなものであり、真面目に努力した結果が正当に報われるという物語の持つ“安心感”が観客の心に快く響くからなのではないだろうか。事実、本作に登場する人物は善人ばかりであり、前半で大渡海の出版を中止しようとした村越局長も、最終的には辞書編集部を激励に訪れるようになる。

まあ、松田龍平オダギリジョー(=ちょっと彼らしくないキャラだったが、なかなか好感が持てる。)といった出演者の好演もあるのであまり否定的なことは言いたくないのだが、本作における“問題意識の欠如”は我が国の映画界に共通する深刻な病であり、例えば、本作でも契約社員として働き続ける佐々木さんの本音を是非聞いてみたかった。

ということで、もう一つの不満は、主人公の編集者としての能力の素晴らしさがほとんど伝わってこないところ。いや、真面目で辞書編纂に誠実なのは良く分かるのだが、それだけでは名編集者とは言えないような気がします。