アラブから見た十字軍

アミン・マアルーフというレバノン生まれのジャーナリストが書いた本。

題名のとおり、内容はキリスト教徒による十字軍遠征の実態をアラブ側から描いたものであり、前半は、分裂状態にあったイスラム諸国がフランク(=ヨーロッパ全体を意味する言葉)相手に連戦連敗を繰り返す様子が延々と綴られる。まあ、一時的な勝利はあるのだが、目の前の利益のためなら平気で身内を裏切り、本来の敵であるフランクとも手を握るという過度の“合理性”が裏目となり、なかなか優勢を維持することが出来ない。

そして、入れ替わり立ち代り目まぐるしく交替するアラブ側のヒーロー達に少々ウンザリしてきたところに颯爽と登場するのが我等が(?)英雄サラディンであり、大胆な戦略家と高潔な人格者の両面を併せ持つこのキャラクターの魅力にコロッと参ってしまう。おそらく、現実よりも少々美化されているのだろうが、非常に興味深い人物であることは間違いない。

まあ、内容的には数多くの戦闘の様子が活き活きと描かれており、戦記物として読んでも十分に楽しめるのだが、その戦闘の文化的・経済的背景等に関する考察がほとんどなされていないため、皮相的な印象が残ってしまうのがもったいない。最後の数ページに、アラブ側が次第に文化的な優位性を失っていった原因に関するとても興味深い記述があるのだが、ここももっと丁寧に説明して欲しかった。

ということで、まあ、当然のことではあるが、どちら側から書かれているかによって“歴史的事実”の印象がガラッと変わってしまうということが良く分かり、とても面白かった。これからも非ヨーロッパの立場から書かれた歴史本を探してみようと思います。