黄金を抱いて翔べ

2012年作品
監督 井筒和幸 出演 妻夫木聡浅野忠信
(あらすじ)
二十数年ぶりに幼年期を過ごした大阪に舞い戻ってきた幸田弘之(妻夫木聡)は、学生時代の友人である北川浩二(浅野忠信)から、大手銀行の地下金庫に眠る金塊の強奪計画を持ちかけられる。システムエンジニアの野田や元北朝鮮工作員のモモ、北川の弟である春樹、エレベーター会社に勤めていたジイちゃんを加えて6人のチームになった彼等は、手始めにダイナマイト輸送車の襲撃を企てる….


高村薫のデビュー作を井筒和幸が映画化したクライムサスペンス作品。

オヤジが読むには題名がちょっと気恥ずかしいこともあって(?)、原作の方は未読なのだが、全体的な雰囲気は間違いなく(初期の頃の)高村薫ワールドであり、彼女が創造した魅力的なキャラクターが活躍するというなかなか興味深い作品に仕上げられている。残念ながら邦画を見る機会はそう多くないのだが、最近見た中ではこれが一番面白い。

登場人物の経歴紹介を最低限に止めることにより、ストーリー展開にスピード感を持たせているのだが、それによって各キャラクターの魅力が損なわれるようなことはない。特に、リーダー格の北川浩二に扮した浅野忠信の存在感が素晴らしく、甘くなったり、臭くなったりしそうなところで見事なバランス感覚(?)を発揮している。

ちょっと気になったのは時代設定がいつなのか良く分からないところであり、一応、“現代”の話ということになっているらしいのだが、青銅社という左翼の過激派団体が登場するところや、金塊が保管されている銀行の地下金庫の“アナログさ”あたりからは、どうしても昭和臭さが漂ってきそうになる。

パッチギ! LOVE&PEACE(2007年)」でヒロインを演じていた中村ゆりを北川の妻役に起用したり、ケンカのシーンで幸田に頭突きを披露させたりと、幸田や北川が引きずっている“喪失感”の原因を在日の問題に求めようとしているような印象があるのだが、それも、本来は、学生運動の夢に敗れた左翼学生くずれの失望感に起因するものだったような気がする。

ということで、冒頭、実の兄を射殺するという衝撃的なシーンで登場する元北朝鮮工作員のモモは、生命力に乏しい薄幸の美青年であり、「神の火」に出てくる高塚良の原型のような存在。おそらく高村薫の趣味なのだと思うが、彼と幸田の関係をあまり生臭く描かなかったのも正しい選択だったと思います。