別離

2011年作品
監督 アスガー・ファルハディ 出演 ペイマン・モアディ、レイラ・ハタミ
(あらすじ)
テヘランに住むナデル(ペイマン・モアディ)とシミン(レイラ・ハタミ)の夫婦は、一人娘テルメーの将来を考え、海外移住の準備を進めていたが、ナデルがアルツハイマー病の老父を残してはいけないと言い出したため、夫婦関係は悪化。裁判所に離婚の調停を申し立てるが、すぐには認められず、シミンは一人で家を出て行くことになる。一方、残されたナデルは、父の介護のために家政婦を雇うことにするが….


第84回アカデミー賞外国語映画賞に輝いたイラン映画

家政婦に雇われることになったラジエーは、失業中の夫ホッジャトに代わって生活費を稼ぐため、身重の体をおして急遽働きに出ることになった女性であり、介護の経験は皆無。それが原因でナデルと口論になり、激昂した彼によってアパートの玄関から押し出されてしまうのだが、その際、階段に倒れこんだ彼女は妊娠中の子どもを流産してしまう。

イランでは、受精後120日以上の胎児は人間として取り扱われるらしく、ナデルは殺人の容疑で裁判所の取調べを受けることになってしまうのだが、映画の前半は、そんな彼が“ラジエーの妊娠を知っていたのか?”という点が重要な争点になってストーリーは展開していく。

さらに、中盤以降は“流産の本当の原因は何か?”という新たな謎が加わり、ミステリイは静かな盛り上がりを見せていくのだが、それと平行して次第に姿を現してくるのが、“家庭の崩壊”という、もう一つの、そして本作最大のテーマ。序盤では、ほとんど感情を表に出すことの無かった娘のテルメーが、本当は誰よりも家庭の崩壊を恐れ、心配していたということが分かるときの衝撃はなかなかのものであり、また、別の場面でラジエーの幼い娘が一瞬見せる怒りの表情もとても印象的だった。

そして、全ての謎が明らかになった後に訪れるラストは、見る者の胸を引き裂かないではおかないような悲しい名シーン。エンドクレジットが始まっても映像は止まらないので、ここで家庭の崩壊を食い止めるような“何か”が起こらないか、祈るような気持ちで見続けていたのだが、結局、何も起こらないまま映画は終わってしまう。

ということで、滅多に見る機会の無いイスラム圏の映画であるが、宗教や慣習の違いはあるものの、(まあ、当然のことながら)登場人物の感情の動きを理解するのに何の支障も無いことを再確認。こういった作品を非イスラム圏の人々が見ることはとても重要なことであり、今後も優れた作品がどんどん我が国に紹介されることを希望します。