愛の調べ

1947年作品
監督 クラレンス・ブラウン 出演 キャサリン・ヘプバーン、ポール・ヘンリード
(あらすじ)
若手の女流ピアニストであるクララ(キャサリン・ヘプバーン)は、国王の御前演奏会においてリストのピアノ協奏曲を披露し、観衆の絶賛を博する。鳴り止まぬアンコールの声に、師でもある彼女の厳格な父親は「ラ・カンパネラ」を演奏するよう指示するが、彼女が演奏したのは恋人で売れない作曲家ロベルト・シューマン(ポール・ヘンリード)の「トロイメライ」だった....


こちらも作曲家のシューマン夫妻を主人公にした作品であるが、ストーリーはかなり脚色されているらしい。

とはいえ、「アンデルセン物語(1952年)」に比べれば相当史実に即しているようであり、シューマンの妻となるクララが、当時、ドイツを代表する名ピアニストだったことや、子沢山だったこと(=7人の子持ちとして描かれているが、実際に生んだのは8人で、長男が1歳で死亡している。)、また、リストやブラームスと親交があったというのは、いずれも本当のことらしい。

一方、後半のメインテーマとなる、若きブラームスがクララに思いを寄せるという展開に関しては、元々親しかった両者の関係が、シューマンの死後、恋愛関係に発展したという噂はあるものの、それを裏付けるような証拠は存在しないとのこと。ちなみに、クララは1819年生まれということで、ブラームスより14歳年上である。

まあ、本作を観賞するに当たり、史実に忠実か否かは大した問題ではなく、クラレンス・ブラウンらしく丁寧に作り上げられたホームドラマを楽しめば良い訳であるが、個人的な好みからいえば、好人物ではあるものの、病気持ちで経済力にも乏しいというシューマンに対し、クララがあまりに立派過ぎるのが鼻につく。

才色兼備の彼女が、超一流のピアノの腕を生かし、稼ぎの悪い亭主に代わって苦しい家計を支えるというエピソードはまだ許せるにしても、シューマンの作曲したオペラが日の目を見ることが出来たのは、共に彼女に思いを寄せるリストとブラームスの影の援助があったからというストーリーは、シューマンにとってちょっと惨め過ぎるだろう。

ということで、当然、ピアノの演奏シーンが何度も登場する訳であるが、それを演じる俳優さん達の指の運びが実に様になっているのには驚いた。音自体は吹き替えなんだろうが、俺のような素人には本当に彼等自身が弾いているように見えるし、特に、最初と最後に見られるヘプバーンの早弾きは見事でした。