シェルブールの雨傘

1963年作品
監督 ジャック・ドゥミ 出演 カトリーヌ・ドヌーヴ、ニーノ・カステルヌオーヴォ
(あらすじ)
1957年11月のフランス。シェルブールに住む自動車修理工のギイ(ニーノ・カステルヌオーヴォ)と雨傘屋の一人娘ジェヌビエーブ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は恋人同士。しかし、彼女の母親は若すぎることを理由に二人の結婚に反対しており、悲しむ彼女にギイは急ぐ必要はないと言って慰めていた。そんなある日、彼の元へ召集令状が届き、二年間の兵役のためアルジェリアへ行くことになる….


1946年のカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いたミュージカル映画

といっても、ダンス・シーンがある訳ではなく、オペラみたいに作中のすべての台詞にメロディがつけられているというとてもユニークな作品であり、随分と昔、ミュージカル映画に対するアレルギーが克服できていない頃に一度TVかビデオで見る機会があったのだが、そのときはあまりのバカバカしさの故、開始早々に見るのをやめてしまったという苦い記憶がある。

しかし、現在はむしろミュージカルを好んで見るようになっているおかげで、今回はミシェル・ルグランによる美しいメロディを十分堪能することが出来た。全編歌のみという制約があるせいか、戦火によって引き裂かれた若い恋人達が、苦悩の末、別々の人生を歩み出すというストーリー自体は至極単純なんだけど、それにもかかわらず十分に感動的なのは何故なんだろう。

まあ、男の俺からすれば、ギイの帰りを待ち切れなかったジェヌビエーブに非があるようにも見えるが、その原因の一端は間違いなくギイにもある訳であり、彼女の愚かさを責める気にはなれない。そして、それは彼に代わって彼女を支えてくれた宝石商のカサールについても同じこと。考えてみると本作には誰一人として悪人が登場しておらず、そんなところに一種の清々しさのようなものを感じるのかも知れない。

ということで、二人の恋が既に過去のものになったことを再確認しているようなラストの淡々とした再会シーンも誠にお見事。まあ、仮にギイとジェヌビエーブが別れることなくあのまま結ばれていたとしても、その後上手くいったかどうかなんてことは誰にも分らない訳であり、案外、お互いにしっかり者のパートナーと結ばれたこっちの結末のほうが本当のハッピーエンドだったのかも知れないね。美しい音楽と映像もとても印象的でした。