霧の波止場

1938年作品
監督 マルセル・カルネ 出演 ジャン・ギャバンミシェル・モルガン
(あらすじ)
夜明け前にル・アーブルに辿り着いた脱走兵のジャン(ジャン・ギャバン)は、パナマと呼ばれる男が経営している波止場の安酒場で、ネリー(ミシェル・モルガン)という美しい娘と知り合いになる。彼女は養父のザベルと一緒に暮らしていたが、彼の下種な人間性を嫌い、家出を繰り返していた….


マルセル・カルネジャック・プレヴェールの手になる彼等の出世作

主人公のジャンは軍服を身に付けており、どうやら脱走兵のようなのだが、それ以外の彼に関する情報は最後まで一切明らかにされない。そんな彼が、たまたまやってきた港町ル・アーブルで過ごした数日間の出来事が描かれている訳であるが、まあ、正直いってストーリーのほうはあまり面白くない。

ネリーの養父であるザベルという男がなかなかの曲者であり、町のやくざ者であるルシアンとも関係したある犯罪に絡んでいるらしいんだけど、脚本上、その設定が十分に活かされているとは言い難く、最後は単なる痴話喧嘩の延長みたいな形で話しが終わってしまう。

しかし、じゃあ、つまらないかというと、実はそうでもないあたりがカルネ&プレヴェール・コンビの一味違うところ。とにかく、本筋とは直接関係のない人々も含め、本作に登場する人物は皆さんいずれもひと癖ありそうな方々ばかりであり、そのキャラを引き立たせるための雰囲気作りにも細心の注意が払われているため、彼等に扮する俳優たちの演技を眺めているだけでも十分に楽しめてしまう。

「望郷(1937年)」や「大いなる幻影(1937年)」とほぼ同時期の出演となるジャン・ギャバンの素晴らしさは、まあ、当然のこととしても、ザベル役のミシェル・シモンのいかがわしさや、ルシアンに扮するピエール・ブラッスールの卑劣さなんかは、見ていて嬉しくなってしまうほど印象的だし、男気のある安酒場の店主パナマや売れない画家、のんべえの酒泥棒といった脇役の方々もそれぞれに個性的な演技を見せてくれる。

ということで、ヒロイン役のミシェル・モルガンは公開当時18歳とのことであるが、とてもそうは見えない程に大人びた演技を見せてくれる。“家出少女”という設定からすれば、もっと年相応に見える女優さんを使った方が良かったのかも知れないけど、本作の“大人の雰囲気”を損ねないようにするためには、彼女の起用は決して間違っていなかったんでしょう。