商船テナシチー

1934年作品
監督 ジュリアン・デュヴィヴィエ 出演 アルベール・プレジャン、ユベール・プレリエ
(あらすじ)
失業中のバスチアン(アルベール・プレジャン)は、パリを離れて新天地のカナダへ出稼ぎに行こうと思い立ち、友人のセガール(ユベール・プレリエ)を誘ってル・アーヴルの港へとやって来た。二人は波止場のマダム・コルジエの宿に一泊した後、商船テナシチーに乗ってカナダへと旅立つが、途中、エンジンの故障によって船は港へと引き返すことに….


デュヴィヴィエ特集の第9弾は、先日見た「白き処女地(1934年)」と同じ年に公開された作品。

ル・アーヴルの港に戻ってきたバスチアンとセガールは、船の修理が終わるまでの間、再びマダム・コルジエの宿に宿泊することになり、セガールはその宿の使用人であるテレーズにほのかな恋心を抱く。しかし、ある偶然の悪戯から彼女はバスチアンの方と結ばれてしまい、そのせいで男の友情にヒビが入ってしまう、という展開は「我等の仲間(1936年)」にちょっと似ていないこともない。

セガールは自分の気持ちをテレーズに打ち明けることができない不器用な男として描かれているんだけれど、彼がテレーズへの告白を躊躇しているのは、決して内気だからというだけではなく、おそらく、いずれ彼女を残してカナダへ旅立ってしまう自分にはその資格がないと考えているせいでもあり、そんな彼がバスチアンからの置手紙を読んだ時のショックの大きさは、まあ、相当なもんだったんだろう。

一方、無責任男のバスチアンを演じているのは、ルネ・クレールの「巴里の屋根の下(1930年)」にも主演していたアルベール・プレジャンであり、本作でも自慢のノドを披露している他、調子が良いにもかかわらず、どこか憎めないという難しいキャラクターを好演している。

ということで、本作はデュヴィヴィエ初期の代表作の一本になるんだろうが、期待にたがわぬ素晴らしい作品であり、脚本、演出そして撮影とどれをとっても文句なく一級品。作品のラスト、一人寂しく旅立ったセガール君が、遠くカナダの地で「白き処女地」に出てきたマリアのような素敵な女性と巡り合えることを切に願わずにはいられません。