アンリエットの巴里祭

1954年作品
監督 ジュリアン・デュヴィヴィエ 出演 ダニー・ロバン、ミシェル・オークレール
(あらすじ)
7月14日の聖アンリエット祭。パリジェンヌのアンリエット(ダニー・ロバン)は、恋人で報道写真家のロベールと楽しい休日を過ごす予定であったが、浮気心を起こした彼は、仕事と偽って彼女を一人置き去りにしたまま別の女性のところへ行ってしまう。そして、悲しみにくれる彼女に、モーリス(ミシェル・オークレール)というナゾの男が近づいてくる….


ちょっと間があいてしまったが、デュヴィヴィエ特集の第6弾は「ドン・カミロ頑張る(1953年)」の翌年に公開されたコメディ作品。

本作は、開始早々に登場する二人の脚本家による“構想中のストーリー”という設定であり、彼等の出し合うアイデアによってアンリエットとロベールの恋物語が様々な方向へと変化していく様子が笑いを誘う。

特に、脚本家の一方はやや猟奇的な志向が強いようであり、彼がアイデアを出すと他愛のないラブストーリーが、一転、犯罪映画のような緊迫感に包まれる。デュヴィヴィエはそのシーンをカメラをやや傾けた構図で撮っているんだけど、それが「舞踏会の手帖(1937年)」のセルフパロディになっていて、とても可笑しい。

他にも、“脚本のネタにもならない新聞記事”として紹介されるエピソードが、デ・シーカの「自転車泥棒(1948年)」やデュヴィヴィエ自身の「陽気なドン・カミロ(1951年)」だったり、途中にスウェーデン出身の女優“イングリッド”が登場するなど、映画ファンが思わずニンマリしてしまうようなクスグリも沢山用意されている。

主演のダニー・ロバンは本作で初めてお目にかかった女優さんであるが、彼女が演じるヒロインのアンリエットは、とても可愛らしい上にちょっと生意気で適度に愚かと、俺の抱いていた(一昔前の?)パリジェンヌのイメージにピッタリ。彼女のクルクルと変化する表情を眺めているだけで、とても楽しい気分にさせてくれる。

ということで、本作はデュヴィヴィエが58歳のときに公開された作品であるが、その余裕と洒落っ気は見事であり、あと10回位は繰り返し見てみたい佳品。実は、本作を見るまでの間、そのリメイクであるオードリー・ヘプバーン主演の「パリで一緒に(1963年)」を鑑賞することを自粛していたんだけど、今度は晴れてそちらの方も拝見させて頂くことにしましょう。