紙屋悦子の青春

2006年作品
監督 黒木和雄 出演 原田知世永瀬正敏
(あらすじ)
昭和20年の早春。空襲で両親を失った紙屋悦子(原田知世)は、今は兄夫婦との3人暮らし。戦時中のモノ不足の中ではあるが、優しい兄と幼馴染の兄嫁と一緒に気ままな日々を送っていた。そんなとき、悦子に海軍航空隊の永与少尉(永瀬正敏)との縁談が持ち上がるが、その縁談を持ってきたのは兄の後輩で彼女が秘かに想いを寄せている明石少尉だった….


2006年4月に亡くなった黒木和雄監督の遺作。

主な舞台となるのは鹿児島の郊外らしく、ちょっと離れたところに海軍航空隊の基地なんかがあるものの、悦子たちの住んでいる付近では空襲の心配もなく、地図でみれば目と鼻の先にある沖縄で激戦が行われたにもかかわらず、“戦争”の実感は彼女らには伝わってこない。

しかし、そんな静かな暮らしを送っているように見えた悦子も、想いを寄せていた人が特攻によって戦死してしまうという形で、やはり戦争の影響から逃れることができなかったというストーリーはちょっと興味深く、兄夫婦による適度に抑制のきいたコミカルな掛け合いとのバランスも良く取れていて、それなりの佳品に仕上がっていると思う。

まあ、欲を言えば“明石少尉の死”が悦子と永与のその後にどのような影響を与えたのかという点に関し、もうちょっと情報が欲しかったところであり、その意味でも本作の最初と最後に登場する年老いたこの二人による会話シーンの意味が気になるところであるが、この老人メイクがいかにも嘘っぽい上、知世ちゃんの声が可愛い過ぎることもあって(?)、黒木監督の意図するところがよく理解できなかったのが大変残念である。

主演の原田知世は、公開当時、40歳に近い年齢にもかかわらず、まだデビュー当時の透明感をこれだけ維持しているというのは本当にスゴイことであり、最近、三枚目的な分野にまで演技の幅を広げようとしている薬師丸ひろ子とは好対照。まあ、相当作品を選ばなくてはならないキャラクターになりつつあるが、ここまできたらもうこの線でとことん頑張っていただきたい。

ということで、黒木監督の作品を見たのは、大昔に見た記憶がある「祭りの準備(1975年)」と「父と暮せば(2004年)」に続きこれが3本目。機会があれば「TOMORROW 明日(1988年)」と「美しい夏キリシマ(2002年)」も見てみようと思います。