ホーカス・ポーカス

ここのところ、最後のエッセイ集である「追憶のハルマゲドン」が出版されたり、旧作の「死よりも悪い運命」が文庫化されたりということで、俺の本棚のカート・ヴォネガットの在庫が充実してきたため、前に買っておいた「ホーカス・ポーカス」を読むことにした。

内容は、ベトナム帰還兵であるユージーン・デブズ・ハートキの自伝というスタイルをとっており、舞台は2001年のアメリカであるが、本書が発表されたのは1990年ということで、一種の“近未来もの”になっている。

この1990年というのはバブル全盛期であり、ロックフェラー・センターの買収に象徴されるように日本企業による海外投資が活発に行われていた時期である。そのことを反映して、本書では刑務所をはじめとする様々な社会資本が日本企業によって買収、運営されているという設定になっている。このため、日本人に関する言及も数多いが「日本人が自分たちのことを、ほかの東洋人から遠く隔たった存在だと考えている」というのは耳が痛い話。これって、海外でも周知の事実だったんだなあ。

まあ、流石のヴォネガットも、当然、バブルの崩壊までは予見できなかった訳で、幸い本書に描かれているような社会は現実のものとはならなかった訳であるが、個々のエピソードを見てみると、2001年末のエンロン事件を予見しているかのような記述とか、まるで今の日本の現状を言い当てているような表現も数多く見受けられ、彼の慧眼ぶりに改めて驚かされる。

ということで、本書の主人公であるハートキ氏のペシミスティックな性向には、精神病患者である家族の存在が暗い影を落としている訳であるが、これはヴォネガット家の現実でもあった訳であり、そんな意味でも読後感は、まあ、なかなか重いです。