誰がイエスを殺したか

デュヴィヴィエの「ゴルゴダの丘(1935年)」を見て以来、このフランス人監督による作品に見て取れた反ユダヤ主義的な傾向がとても気になっていたんだが、その背景を知る手掛かりにでもなればと思って本書を読んでみた。ちなみに、本書の副題は「反ユダヤ主義の起源とイエスの死」。

著者のジョン・ドミニク・クロッサンはアイルランド出身の聖書学者。バリバリのカソリックでありながら聖書の記述を絶対視せず、歴史的存在としてのイエスを探ろうというユニークな方らしく、当然、敵も多そう。

本書では、「ゴルゴダの丘」に描かれていたようなイエスの受難物語が「記憶された歴史」なのか、または「歴史化された預言」(=つまりフィクション)なのかというのが最大のテーマになっている訳であるが、著者の結論はもちろん後者。そして、この受難物語につきまとう反ユダヤ主義は、当時、弱小勢力であったキリスト派ユダヤ教プロパガンダにすぎないと主張する。

まあ、我ら無神論者にとってみれば、これは極めて穏当な結論だと思う訳だが、そこにたどりつくまでに、イエスの死後、彼の弟子たちが旧約聖書の中から様々な受難劇の欠片を寄せ集め、それを基にしてイエスの受難物語をドラマチックに再構成していく過程が各福音書等の比較をとおして丁寧に説明されており、上等のミステリイを読んでいるようでとても面白い。

ということで、本書を読み終わった後、思わずAmazonで同じ著者による「イエス−あるユダヤ人貧農の革命的生涯」を注文してしまった。ちょっと高かった(=¥3,780)けど、キリスト教に関する知識は西洋美術鑑賞にも必須であるため、まあ、良いことにしておきましょう。