わが心のボルチモア

1990年作品
監督 バリー・レヴィンソン 出演 アーミン・ミューラー=スタール、アイダン・クイン
(あらすじ)
1914年、サム・クリチンスキー(アーミン・ミューラー=スタール)は、先にアメリカに渡っていた兄弟たちを頼って、東欧から移住してきた。同じ移民であるエバと結婚した後もアヴァロンの共同住宅で兄弟たち家族と一緒に生活していたが、息子ジュールス(アイダン・クイン)の始めた家電製品のディスカウントショップが大当たりし、彼等だけが郊外の一戸建てに引っ越すことになった….


「ヘアスプレー(2007年)」からのボルチモアつながりというか、Randy Newmanの「Baltimore」の歌詞をネットで探していたら、たまたま彼が音楽を担当したという本作の名前が目にとまり、ちょっと面白そうだったので見てみた次第。

内容は、東欧から移民としてアメリカにやってきた人々の三世代にわたる生活を取り上げた作品であり、移民してきた頃の兄弟、家族の関係が世代とともに次第に変質していく様子が淡々と描かれている。

サムの息子のジュールスは、いかにも東欧的な“クリチンスキー”という姓を嫌い、勝手に“ケイ”という名前に改名してしまうし、彼の妻のエリザベスは大家族での共同生活に耐えきれず、夫の事業が成功するとその金でさっさと郊外へと引っ越してしまう。また、彼等が引っ越した後も続けられていたクリチンスキー一族による恒例の家族会議も、些細なことが原因で空中分解してしまい、挙げ句の果てには、身内の葬儀にさえ出席を拒むようになる始末。

家族の崩壊(=核家族化)というのは何もアメリカ人に限った話ではないが、移民という大事業を成し遂げた者同士の結束というのは、我々には計り知れないような重みがあるんだろうし、それが失われてしまうときの寂しさもひとしおという所なんだろうなあ。また、本作ではこのテーマと並行してジュールスが始めた事業の成功と挫折とがなかなかスリリングなテンポで描かれており、観客を退屈させないための配慮も万全です。

まあ、ウディ・アレンが撮っていたら、もっとノスタルジックな雰囲気の色濃い佳品になるんだろうなあ、って思いながら見ていた訳だが、その代わりに本作ではRandy Newmanのやさしくも物悲しいメロディラインがテーマにふさわしい雰囲気を盛り上げてくれている。

ということで、クリチンスキー家の三代目として、公開当時9歳のイライジャ・ウッドが出ているのだが、そのお姿があまりに可愛らしいので、最後の方で起きる大惨事の責任が彼に無いってことが判ったときは、見ているこっちまでホッと胸をなでおろしてしまいました。