かもめ食堂

2005年作品
監督 荻上直子 出演 小林聡美片桐はいり
(あらすじ)
サチエ(小林聡美)はフィンランドヘルシンキに小さな和食レストラン「かもめ食堂」をオープンするが、お客は日本カブレの変な青年一人だけ。彼からアニメの主題歌の歌詞を尋ねられたことがきっかけで、日本から旅行に来ていたミドリ(片桐はいり)と知り合いになり、彼女も店を手伝うようになる….


タイトルと出演者から勝手に下町の人情喜劇を予想していたんだけど、これが見事に大外れ。

特にどうっていうストーリーは存在せず、「かもめ食堂」に集まってくる人々の半年くらいの間の出来事が淡々と描かれている。サチエとミドリ以外にもう一人、もたいまさこ扮するマサコという日本人が登場してくるんだけど、彼女ら3人が日本でどのような生活を送り、どのような理由でフィンランドまでやってきたのか等の事情はほとんど語られない。

まあ、女一人でこんな所までやって来るくらいだから彼女らにもそれぞれ辛い事情はあるんだろうけど、お互いがたまたま旅先で知り合っただけの“他人”という立場を尊重しながら、傷を舐め合うのではなく、無心で餌をついばむカモメのように遠い北欧の地で日常のしがらみから自由になって生活している様は、見ていてなかなか心地良い。

しかし、こういった生活が長引くのに従って新たなしがらみが生まれてくる訳であり、実際のところ、この関係は決して長続きするものでは無いんだろう。その意味で、本作はいわば人間関係の一番おいしいところを切り取って見せただけのものなのかも知れず、見たときの心理状態によっては甘すぎるという批判もあるのかもしれないけど、幸いなことに(?)今の俺はとても楽しく鑑賞することができた。

主演の三人はもう全然安心して見ていられる訳で、特に小林聡美の自然な演技には改めて恐れ入った。ミドリ役にはもっと若い女優さんをキャスティングすることも考えられるんだろうけど、まあ、そうすると青春とかが始まっちゃってテンポが狂うということで、きっとこうなったんだろうなあ。

ということで、北欧の柔らかな陽光の中で見る彼女らのお姿は意外なほどに素敵であり、キッチンで料理をしているところなんかはフェルメールの絵画を彷彿とさせるものがありました。<ちょっと褒めすぎ?