居酒屋

1956年作品
監督 ルネ・クレマン 出演 マリア・シェル、フランソワ・ペリエ
(あらすじ)
幼い2人の子供を残されたまま内縁の夫に逃げられてしまった洗濯女のジェルヴェーズ(マリア・シェル)。その後、彼女は屋根職人のクーポー(フランソワ・ペリエ)と正式に結婚し、貧しい生活の中から少しずつ貯めたお金で長年の夢であった自分の店を持てることになる。しかし、その契約の当日、クーポーは屋根から落ちて大ケガを負ってしまう….


エミール・ゾラの名作の映画化。

19世紀末頃のパリの下町の話しなんだけど、監督のルネ・クレマン自然主義文学を忠実に作品化しているため、“花の都”のイメージから連想されるロマンチックな雰囲気とは程遠い映像であり、むしろ相当バッチイという印象。

ストーリーのほうもかなり悲惨であり、事故のショックから立ち直れずに酒浸りになってしまったクーポーは、経済的に全く頼りにならないばかりか、何故かジェルヴェーズの内縁の夫だったランチェに自宅の一室を提供する等の自虐的とも思える行為を繰り返し、ジェルヴェーズを経済面・精神面の両方から追いつめていく。

邦画に登場するダメな夫の場合、妻に対する“甘え”みたいなものが垣間見られるパターンが多いんで、まあ、それなりの微笑ましさが感じられるのに対し、このクーポー君はもっと破壊的なタイプで見ていて何とも救いがない。そして、彼の大立ち回りですべてはブチ壊しになって映画は終わる。

そんな中で、見ている方にとっての唯一の救いはマリア・シェル扮するところのジェルヴェーズの健気さだろう。クーポーとの間にも娘が生まれるので計3人の子持ちになるんだけど、小柄なのと童顔なのとで最後まで結構若く見える。まあ、一部道徳的に問題のある行動も見られるものの、あの状態ではとても彼女を非難する気にはなれません。

それだけにラストの居酒屋における彼女の哀れな姿はちょっと正視できない程なんだけど、そんな廃人同然の彼女を見捨てるように戸外へと出て行ってしまう幼い娘が、その後成長してあの“ナナ”になるんだよねえ。

ということで、ルネ・クレマンのモノクロ時代の作品ってこれまで「禁じられた遊び(1952年)」くらいしか見たことが無かったけど、彼がとても真面目な監督さんだということが良ーく解った。そういえば前に買った「海の牙(1947年)」のDVDもまだ見ていないので、今度見てみることにしましょう。

それと、この映画の中で登場人物がみんなでルーブル美術館に行くシーンがあり、当時の庶民による芸術鑑賞の様子(?)が描かれていてなかなか興味深かった。ドラクロアの絵なんかもちょっと映るんだけど、あれってやっぱり映画のセットなのかなあ。