名刀美女丸

1945年作品
監督 溝口健二 出演 花柳章太郎山田五十鈴
(あらすじ)
若い刀鍛冶の清音(花柳章太郎)は自分の打った刀を養父小野田小左衛門に贈るが、主君の警護中にその刀が折れてしまい、小左衛門は閉門処分に。そんなところへ同僚の内藤が訪れ、主君に処分を解いてくれるよう口添えしたいが、その代わりに小左衛門の娘の笹枝(山田五十鈴)との結婚を認めて欲しいと言ってきた….


戦時中に撮られた作品で上映時間も1時間強と短い。

この後、小左衛門は言い争いになった内藤に殺されてしまい、清音が精魂込めて打った刀を使って笹枝が見事に仇を打つっていうストーリー。

限られた時間にもかかわらず、清音が刀を打つシーンの描写に相当の時間を費やしており、いろいろと工夫の跡も見られるんだけれど、正直、この辺りの描写はちょっと退屈。ところが、刀が出来上がってからは何故か一気に展開がスピードアップし、あっという間に内藤を見つけ出し、一発で敵討に成功してしまう・・・

確かに主人公が刀鍛冶なんで、刀づくりのほうにウエイトを置くのも解らないではないんだが、やっぱりクライマックスである敵討シーンの描写はもうちょっと丁寧にお願いしたかったところ。ただし、戦時中のモノ不足にもかかわらず、敵討の背景に鳥羽伏見の戦い(?)を持って来るっていうサービス精神には、ホント頭が下がります。

山田五十鈴扮する笹枝は剣豪の娘という設定なんで、彼女の立ち回りシーンなんかも見られるんだけど、やはり時代的な制約があったせいか、性格的には「祇園の姉妹(1936年)」なんかの勝気なキャラとは対照的にいたって温和な役どころ。でも、こういった大和撫子風の山田五十鈴も悪くないなあ。

ということで、あまり溝口らしさは出ていないし、作品自体にもいろいろと文句をつけたい点はあるものの、戦時中というハンディキャップを考えてみれば、“まあ、しょうがないか”っていう感じの出来。でも、ストーリー自体は決して悪くないんで、物語全体の時間配分を見直したうえでリメイクしてみれば、結構面白い作品になるかもしれない。良質な脚本不足が顕著な昨今、誰か試してみないものか。